11 / 36
3-5
事後、ぐったりするオレを甲斐甲斐しく世話した篠山は、なんだか幸せそうな表情で布団に潜り込んできた。
「体、大丈夫ですか? 激しくしすぎちゃいました」
「平気」
「ならよかったです」
慈しむように撫でられて、複雑な気持ちになる。
他の客にもこんな風に、優しさを見せるようなサービスをするのか?
……なんて、全く言う筋合いのないことを考えてしまう。
オレだって他と同じように、デリヘルのあゆむくんを金で買う客だ。
「せっかくご厚意で、休ませてもらえるなんて申し出だったのに、普通にしてしまっててすみません」
「別に。てか、かっこつけて大見得きった割に、いとも簡単に勃起する自分が恥ずかしいわ」
「ええ? うれしかったですよ。……その、安西さんと、って」
穏やかな目だが、何を思っているかは分からない。
他にも相手はたくさんいるだろうに、よりによって会社の先輩と……なんて。
篠山はちょっと体をずらしてこちらに距離を詰めると、ふんわり抱きしめてきた。
「さっきの北川さんの話、俺、うれしかったです」
「……? なんだっけ?」
「第三者の目から見て、安西さんが俺に頼ってるように見えた。っていうの」
「まあ実際頼りまくってたみたいだしな。全くの無自覚で申し訳なかったけど」
急に疲れを自覚して、まぶたが重くなる。
辛うじて目を開けると、篠山はゆるく首を横に振りながら、ほんのり微笑んだ。
「申し訳なくなんかないです。自分はコミュニケーション下手くそだし、役に立ててるのかなって、よく思ってたので」
「んー? 役立ってるに決まってるだろ」
「今週、仕事楽しかったですよ。業務量は多かったですけど、安西さんと会社でしゃべれて、うれしかったです」
「……そっか」
うれしく思っていたなんて、全く気づかなかった。
いや、思い返してみても、常に無表情だった気がするが。
布団に深く潜りながら、篠山の鎖骨の辺りに、額を寄せる。
篠山は、いいこいいことするようにオレの頭を撫でた。
「なんか、もったいなくて、寝たくないです。朝までずっとこうしてたいな……って」
「それじゃ呼んだ意味ないだろ。寝てほしいっつってんのに」
「多分、自分が眠るより、寝てる安西さんを見てる方が癒されます」
「変わった奴だな」
と言いつつ、本気で眠い。
自分も意外と疲れていたのだと知る。
現実と夢の境があいまいになる。
うとうとしながら、篠山がくすっと笑うのが聞こえた。
そして、こんなことを言った気がした。
――仕事納めしたら、しばらく会えないの。寂しいですね
都合のよい夢なのか、本当にそう言ったのかは、分からなかった。
ともだちにシェアしよう!