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side美智

五月も半ばを迎えた頃。時期外れの転校生がやってきたという噂で校内は持ちきりだった。それもただの転校生ではない。まるで作り物のように綺麗な子なのだという。 美智も遠目でその姿を確認したことがある。プラチナブロンドの髪と透けるような色白の肌は漆黒の詰襟を纏う生徒たちの群れの中で一際目立っていた。 「ねぇ彰吾、明日転校生見に行かない?興味あるでしょ」 「あぁ、まぁな」 友人は口ではそう答えたが、それほど惹かれてはいないらしい。今は目の前に転がっている、名も知らぬ一年を鳴かせることに夢中のようだ。 中途半端に脱がせた詰襟は、床に擦れてぐしゃぐしゃに乱れている。腕をベルトで括られ、彰吾に突き上げられるたびに涙を流しながら喘ぐ姿は哀れだと、他人事のように思う。 まだあどけなさの残る少年の悲壮感溢れる姿にそそられはするが、一度熱を吐き出すともう美智の興味は失せてしまった。だからこうして次のターゲットのことを考えてしまう。 どちらかが標的を見つけ、狩りをする遊びを始めたのはいつからだろうか。容姿のいい二人に望んで抱かれたがる者は校内、校外問わず少なくはないから、本当にただのゲーム感覚、暇つぶしの遊びだった。 翌日の昼休み、宣言通り彰吾を連れて一年の教室に向かうと、ちらほらと覚えのある顔から視線を向けられた。 一年が入学してからの一ヶ月半。そのあいだに彰吾と共に喰らった子たちなのだろう。ただ暴力的なセックスがしたいわけではない。相手にもそれなりに快感を与えれば更に具合も良くなると分かっている。だから美智と彰吾が抱いた生徒は皆、被害を訴えないし、それどころか今のように熱っぽい目つきを向けてくる者が多い。 今日の獲物は教室の端にぽつんと座っていた。周囲の喧騒に混ざらず、ただぼんやりと佇んでいる。 「たしかに、あれはすごいな」 近くで観察してようやく彰吾の食指も動いたらしい。茶色の瞳に獰猛な光が宿るのをみて、美智もまた、楽しい遊びになりそうだと心を躍らせた。 断りもなく教室に入り込むが、転校生はちっともこちらを見ない。クラスメイトたちのざわめきなど全く耳に入っていないようだ。 「こんにちは」 彼の座席に辿り着き、声を掛けてようやく視線が美智に向けられる。長い睫毛に縁取られた蜂蜜色の瞳。甘そうなそれを舐めてみたいと、そんなことを考えてしまう。 「お昼これからだよね?俺たちと一緒に食べない?」 一見健全なお誘いだが、周りはその言葉の意味を理解している。だが、本人は少し驚いた素振りを見せたものの、そこに美智たちが期待した怯えは滲んでいない。 浮いた存在である転校生には、この危険な上級生の噂を耳に入れてくれる友人などいなかったのだろう。

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