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「君たち懲りないねぇほんと」 葵を連れて保健室を訪れれば、その部屋の主が肩をすくめるなんてわざとらしい動作で出迎えてくる。彼は彰吾と美智が普段どんな遊びをしているのか知っている上で注意もせず、面白がっているような奇異な教師だ。だからこうして情事後の痕跡が色濃く残る葵を平気で連れ込むことができる。 彼がこの部屋で遊ぶことを許可さえしてくれれば、思う存分ベッドでセックスを楽しむことが出来るのだが、それだけは未だ容認してもらえない。 「知らないかもしれないけど、その子、すんごい金持ちのお坊ちゃんよ?さすがに二回手出すのは危ないんじゃない?」 「先生、これ実は三回目」 美智が訂正してやると、保健医は一層呆れたように乾いた笑いをしてみせた。 幸い、今は誰も利用者がいないようだ。一番手前のベッドに葵を横たえさせ、布団をかけると、もぞもぞと中に潜り込んでしまった。眠りの中でも無意識に身を守るような仕草は、彼が幼い頃から受けてきた悪戯がもたらしたもののように思える。 「あの世話役の子は止めてこないの?」 後を追ってベッドの並ぶ空間にきた保健医は葵に視線をやりながら、二人に颯斗のことを尋ねてくる。 「うん、巻き込まれたくないんじゃない?助けてくれないなんて本当かわいそうだよね、葵。なんのための世話役なんだか」 「そう思うならやめてやれよ。元凶は君たちだろうが。毎度ぶっ倒れるまで抱いてたらすぐに壊れるぞ、この子。もうちょっと丈夫そうなのに手出せ」 細すぎる葵の体格を心配しているのは教師らしくもあるが、他を薦めてくること自体はどうかしている。だからこの保健医との会話は彰吾も美智も嫌いではない。 「こうやってわざわざ運んでやって、付き添いもするってことは、君たちなりに大事にはしてるんだろうけどさ」 抱いた相手を保健室にぶち込むことはあっても、寝顔を見ていくようなことは確かにしたことはない。それを彼も知っているから、彰吾たちが葵に特別な執着を抱いていると察したようだ。 「ていうか、また昼休みから?この子に飯は食わせてないの?」 「あぁ、そういえば葵にごはん食べさせるってことは全く考えてなかったね」 「そういやそうだな」 保健医の言葉で、葵に毎回食事も水分も摂らせていなかったことに思い当たる。彰吾たちは互いが葵を抱いている間適当に済ませてしまったが、葵には休む暇も与えなかった。 「君たちはどんだけひどい奴らなの?こんなのに気に入られちゃって、ツイてないね」 そう言って保健医は布団からわずかに覗く金色の髪を撫でて、憐れんだ目をしてみせた。 ツイていないのはきっと彰吾たちに出会ったことだけではない。偏った愛を注ぐ父親の元に生まれてしまってからずっと、葵はひどい人生を送っているはずだ。 「かわいそうに」 保健医の言葉が耳につく。共感はする。確かにかわいそうだ。 でも葵の無垢な寝顔にすら、密かに欲情してしまう。清潔なシーツにあの肢体を押し付け、唇を塞ぎ、泣かせたい。美智の顔をちらりと覗き見れば、彼もまた自分と同じ目で葵を見つめていた。

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