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「昼飯どっかで食ってく?」
今まで葵とのやりとりにはちっとも参入せず、興味もなさそうにしていた彰吾の言葉で美智は思い立つ。
「ねぇ、今度葵と一緒にお昼ご飯食べようか」
初めて葵を教室から連れ出した日だけは用意をしてやったけれど、結局パンを一欠片しか食べさせなかったし、その後に関しては全く気遣ってやらなかった。文字通り飲まず食わずでセックスに付き合わせている。
だからたまには葵を食堂にでも連れ出すのもいいかもしれない。他の生徒たちに、葵が自分達のものだとアピールも出来る。
「一緒に?なんで?」
彰吾は美智の提案をすんなりとは受け入れてくれなかった。
「飯食わせたいなら、帰りに何か持たせてやれば?」
「ひどいなぁ彰吾は」
あくまで葵とのセックスの時間を減らしたくはないらしい。言葉数は少ないが、彼は決してクールなわけではない。むしろ一度火がついてしまうと、時を忘れるほど乱暴に葵を抱きつくす獣のような男だ。
きっと試験が明けたらまた飢えを癒すように葵を貪りたいに違いない。
「葵からもう少しパパの話引き出したくない?もしかしたら何かいい方法浮かぶかも」
父親が高校の入学手続きをあえて行わなかったとしても、今こうして葵は登校してきている。父ではなく、別の誰かが道を正したに違いない。そしてそれはおそらく葵の祖父。彼らの関係性が見えてきたら、葵と長く遊ぶ手段を見つけられる可能性がある。
「あぁ、そういうこと?情が湧いたのかと思った」
「葵に?まぁ毎回食事抜きは可哀想だと思うぐらいには情は湧いてるかもね」
「ふーん」
彰吾はまだ納得がいかなそうな様子を見せる。
「毎日抱くとバレるリスクも増すよ。食事する気ないなら、彰吾は他と遊んでてもいいし」
「……他、ねぇ」
リスクに関しては彰吾も理解はしているはずだ。それに何から何まで無理に彰吾を付き合わせるつもりもない。だが、彰吾はそれも気に食わないらしい。葵並みに楽しめる相手が今の校内に居るとは思えない、そういうことなのだろう。
そのまま彰吾が黙り込んでしまうから、美智も口を噤み、そして先ほどのことを静かに振り返った。
“ばいばい”
葵は声を発さず小さく唇だけを動かして、美智の言葉を繰り返した。そうして背を向け、迎えの車に乗り込んだ葵を引き留めたくなったのは、ただ欲によるものなのだろうか。
美智に向けて振られた手の感触がまだ残っている。ああして手を繋いで歩く行為も悪くなかった。それは今まで覚えのない、不思議な感覚だった。
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