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「花びら、浮かべてみたら?」 縁に置かれたバスケットに視線をやったことに気付き、馨は葵を促してやる。せっかく用意されたのだ。ベタではあるが、葵とこうして過ごすのも悪くない。 「全部そうやって並べるの?」 一枚指で摘んでは湯に浮かべ、そしてまた次の花びらに手を伸ばす。バスケットが空になるのは一体いつになるのだろう。しばらく観察していた馨は、さすがに葵の様子に口を出したくなる。 葵は馨の指摘の意味が分からないのか、不思議そうに手を止め、こちらを見つめ返してきた。葵のこうした性質は、ほとんど何にも触れさせずに育ててきたせいだ。だから柾は不安なのだろうが、馨にとっては可愛くて仕方ない。 「貸してごらん」 馨が指示すると、葵は素直にバスケットを手渡してくる。それを受け取るなり、馨は葵の頭上から躊躇いなく花びらを降らせてやった。 ブロンドの髪や、湯から覗く肩に真っ赤な花びらを何枚もくっつけ、驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返す様もまた馨の口元を綻ばせる。 「おいで、葵。続きしようか」 愛らしい姿に、我慢が出来なくなってしまった。膝の上に来るよう誘えば、葵はおそるおそる背中を預けてくる。 「沢山我慢できたいい子にはご褒美あげないとね」 「……んっ、あぁぁっ」 ウエストで交差させた両手を脇腹に這い上がらせ、そして刺激を待ち続けた場所に辿り着かせる。まずは手の平で確かめるように撫でてやれば、控えめな粒の感触が馨を楽しませた。 「すぐ硬くなってきた。ずっと触って欲しかったもんね」 「あっ、ん……ッ、んん」 ゆるゆると胸を撫でると、その刺激だけで素直にツンと育つ突起。薄く平らな胸の上でそこだけが馨の手に引っ掛かる。 摘まれたり捻られたり吸われたり。強い愛撫に慣れたはずのそこは、散々焦らし尽くされたせいで、こんな緩やかな触れ合いにも面白いくらいに反応してくれる。 「いい子は大好きだよ」 体の揺れに合わせて、髪に絡んでいた花びらがはらはらと落ちていく。それを辿るようにうなじや肩口を啄ばみ愛を囁くと、葵は甘えるように喉を鳴らした。 馨の愛だけを受けて育った葵。裏を返すと、馨に見放されれば葵は全てを失うことになる。だから馨が甘やかし、好意を伝えてやるととてつもなく安堵するようだ。 「このままイケたら、あとはベッドで沢山舐めてあげるよ。葵、出来るね?」 ご褒美だというのに、甘い責め苦を受け入れることを強いても、葵は頷くことしかできない。 いくら敏感で快楽に弱い体に仕立て上げたとはいえ、手の平で捏ねられるだけの愛撫で昇り詰めることは簡単ではない。それでも葵には他に選択肢が与えられていないのだ。 葵にとってはある意味普通に抱かれるよりも疲れ果てる行為かもしれない。 ほんのりと桃色に染まる肌に手を這わせるたびに、浴室には嬌声と湯が波立つ音が響く。 このあと葵がきちんと絶頂に辿り着けたとして、すんなりベッドには運べず、きっとまたここでも求めてしまうだろう。そしてベッドに連れ込んだとて、まだまだ可愛がってあげねばならない箇所も、してあげなくてはならないこともある。 「せっかくだから、もう一泊してしまおうか」 初めからその可能性は高かったけれど、馨があえて宣言してやれば葵からは吐息が零れた。まだ始まったばかりの馨との時間への期待か。それとも絶望か。 焦れったい愛撫に泣き出した葵を抱き締めて、馨はもう一度この愛しい存在に愛を囁いた。

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