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Liquidation 2-3

 彼らなら大丈夫だ。モリタと話した後、早々に帰宅したサムはソファーに横たわり、そっと目を閉じる。  分署を出る際に数日の休みをまとめて取った。申請時に多少嫌な顔をされたが、部下兼相棒が拉致されたと署内全員に伝わっている今、むげに断られるとも思っていなかった。実際その通りになり、サムにはひとりで考える時間ができた。  しかしひとりになったところで状況が好転するはずもなく、単独で捜査するには限界がある。何より自分の失態でジェイクの命が脅かされている。ビルの潜伏先にいくつか心当たりがあるが、今はとてもじゃないが動ける状態ではなかった。  ――もしあの死体が本当にジェイクだったら……。  ビルの悪質なパフォーマンスは大成功だ。ただジェイクを人質に取ったと口で言われるよりも、精神的にダメージを負わせることができる。  あの死体の身元はおそらくそう簡単に割れないだろう。割れたとしても、簡単に自分へ繋がるような男をビルが選ぶとは考えられない。こうして悶々(もんもん)と考えている間にもジェイクの身が危機に陥っている。せめてビルから接触があればと安易な考えすら浮かぶ。  よどんだ思考をクリアにするために、サムはキッチンへ向かい、コーヒーを淹れる。ミルで豆を挽いている間、ふとビルの言葉が脳裏に浮かんだ。  ――アリソンは僕の目の前で自らの頭を撃ち抜いた。  三年前。ビルの妻・アリソンは自宅で娘を撃ち、その後自殺した。サムが知っていたのはそれだけだ。あのパフォーマンスを今度こそ忠実に再現するつもりなら、場所は当然彼の自宅である。しかしビルは妻子が亡くなった後、家を売り払い、そして姿を消した。  それならば妻子に関係がある場所。アリソンの実家は記憶が正しければ両親は健在だが、カナダに在住している。わざわざジェイクを連れて国境をまたぐとは考えにくい。  もしくは彼女たちが眠る墓地――いや、見晴らしが良すぎる。ビルは何事にも慎重であり、法の番人とも呼ばれるくらい規律に厳しい人間だった。命が眠る場所を汚すような無粋な真似はしないだろう。  あとは――。  サムはミルを挽く手を止め、そのまましゃがみこむ。 「…………ジェイク」  真剣に愛した相手は彼が初めてだ。今までのパートナーは恋人というよりもむしろセックスフレンドに近く、別れ方もドライだった。しかしジェイクに対しての想いは思春期のティーンのような甘く、ピュアなものであり、好きな子ほど苛めたくなってしまうという心理を、四十を超えてようやく理解できた。  ジェイクを失うことだけは考えられない。ビルと刺し違えても、彼の命だけは救いたい。 「君を本当に愛している」  言うべき相手は目の前にいない。言いようのない寂寥感(せきりょうかん)にこの身を滅ぼされそうだ。年甲斐もなく涙が溢れてくる。とうの昔に枯渇したと思っていたのに。  ソファーに投げ出したジャケットに入れていた携帯電話が着信を告げる。サムはゆっくりと立ちあがり、携帯を手にする。一呼吸置き、通話ボタンを押す。 「――出てくれて嬉しいよ、サミュエル」  これからの駆け引きが吉と出るか凶と出るか――。  サムは平然を装いながら会話を続けた。

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