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第77話
レイスに一通り文句を言って少しだけ気持ちが落ち着いた俺は、もう一度王子様と顔を会わせた。
「少しは落ち着いたかな?」
俺を見た王子様がそう聞いてくる。
レイスは大丈夫だって言うけど、それでもやっぱりどう話して良いのか分からなくて、俺はレイスの後ろに隠れてしまった。
そんな俺を王子様は困ったように笑った。
「…まだ駄目みたいだけど?」
と王子様はレイスに向かって言う。
「ディルが王子なのが悪い」
「え、それ俺のせいじゃないよね!?」
……やっぱり仲が良いな。どういう経緯かは分からないけど、レイスと王子様は小さい頃からの友達だって言ってたし。
そう思って少し身をのりだして二人を見てると、また王子様と目が合う。
俺は思わず、またレイスの後ろに隠れてしまった。
「………あ、そうだ!」
レイスが何か思い出したように声を上げる。
その後、王子様と何かヒソヒソと話をし始めた。
「……本当にそれで上手くいくのか?」
「間違いない」
何の話をしていたかは分からないけど、そう言って頷くレイスに俺は首を傾げた。
少し様子を見ていると、王子様がまた俺を見る。
「フタバ…で良かったかな?」
「え、あ、はい」
突然名前を呼ばれて、俺は思わず返事をしてしまう。
しまった!!俺、ちゃんと名乗ってなかったんじゃないか!?
王子様はちゃんと名乗ってくれたのに俺が名乗らないのって、ものすごく失礼なんじゃ!?
…………もしかして、それで気を害したんじゃ?
そう思って俺は恐る恐る王子様を見ると、王子様はニッコリと笑った。
「君は魔術師だと聞いている。お近付きの印に俺が魔法を披露しようと思うのだが如何かな?」
そう言う王子様に、俺は体がピクンと反応した。
「王子様が魔法を使うんですか!?」
そう聞くと、王子様がまたニッコリと笑う。
「………ディル」
「え?」
「『王子様』じゃなくて、『ディル』と呼んでくれないか?」
「…え、いや……でも……」
突然何を言い出すの!?まだ名前でも呼んでないのに、いきなり愛称でってハードル高すぎない!?
「『ディル』と呼んでくれないか?」
と王子様は笑顔を絶さず、もう一度言う。
………なんだろう、笑顔なのにすごく圧を感じる。
「………えっと……じゃあ、ディル…様?」
そう言うと、王子様は少し寂しそうに笑う。
「出来れば『様』も取ってくれると嬉しいんだけどね。本当は敬称を付けられるのはあまり好きじゃないんだよ」
……あ、そうか。王子様は、敬称を付けられると皆から壁みたいなのを感じるんだ。
王族に対しての接し方には暗黙のルールみたいなのがある。それは敬意とかを表す意味でもあるけど、殆どが不敬が無いようにっていう自衛。
王子様はそういうのを嫌う人なんだ……
「…分かりました、ディル」
そう言うと、ディルの表情がパァと明るくなった。
「出来れば敬語も止めて欲しい」
「いや、それはちょっと…………」
愛称で呼ぶのもやっとなのに、その上タメ口は流石に……
『無理』と思ったけど、ディルのキラキラとした期待の眼差しに俺は完全に負けてしまった。
「…………分かったよ、ディル」
俺がそう言うと、ディルは嬉しそうに笑った。
俺はその姿を見て、小さくため息をついた。
ちなみに俺とディルのこのやり取りを、レイスはずっとクスクスと笑いながら見ていた。
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