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第14話

噴水のある芝広場に建てられた白いレンガ調の立派な建物。 ここがこの街の役場らしい。 某ゲームの博物館を思い出す。 「小豆、スリングの中入って。」 はいはーい! ぴょんと伊織の手に飛びつくと、スリングの中に入れてくれた。 駐車場から芝広場を横切る時に広場の奥に造られたアスレチックが見えた。 木でできた大きなアスレチックでは、沢山の子供たちが遊んでいた。 役場の建物内は、天井が吹き抜けになっていて、太陽光が差し込んでいた。 玄関ホールの中央に2階に続く螺旋階段があって、伊織は階段を登って行った。 さっきから気になってるんだけど、伊織が右手に下げているトートバッグ…。 何が入ってるんだろう? 階段を登りきった2階は、ワンフロアになっていてブースごとに衝立で区切られていた。 その内の『獣人手形』とプレートを掲げるブースへ行くと、小柄な女性職員が座っていた。 「すみません。ここで獣人手形を発行して貰えるんですよね?」 「はい。そうです。そちらにお掛け下さい。」 女性職員に促され、デスクを挟んだ正面の椅子に座った。 「それでは、まず獣人手形についてのご説明をさせていただきます。」 つらつらと説明をしてくれる職員さん。 だけどその内容は、昨晩珠希さんが簡潔に説明してくれたものと変わりなかった。 「それからですね。…すでに人間の姿に変われる方でも、獣人手形の発行は可能になります。」 …んにゃ? なんかおかしくない? 伊織も状況を把握しようとしているのか、目をパチクリとさせていた。 「いや、あの…僕の方ではなくて、こっちです。」 そう言って、膝の上のスリングの中に居た僕を女性職員に見せた。 途端に顔を赤く染めた職員さんは、深々と頭を下げ勘違いした事を謝罪してきた。 そして「獣人の担当の者を呼んで来ます。」と言い去って行ってしまった。 何だか慌ただしい人だったな…。 「先程は、部下が失礼致しました。」 そう言い女性職員と代わり僕達の前に来たのは、大柄な男性職員だった。 さっきとは打って変わって、伊織の顔が若干強ばったような…緊張した表情に変わった。 それもそのはず、男性職員の顔は、左半分だけに薄らと黒っぽい縦線…虎柄のようなものがあったからだ。 もしかして刺青…。 大柄な上に顔に刺青って、厳ついにも程がある。 「…怖がらせてしまいすみません。 初対面の方は、皆この顔を見ると怯えてしまうんです。」 少し寂しそうに顔の模様を撫でた。 「実は僕、虎の獣人なんです。 人間の姿になっても、この模様だけはどうにも消えなくて…。 それに虎の獣人というだけで、余計に怖がらせてしまうんですよ。 ですが…。ここの職場は、理解ある方が多くて助かってます。 こんな身なりですが、困った事があれば何でも気軽に相談して下さい。」 穏やかな口調で話してくれた男性職員の山瀬さん。 その口調や周りの人への気づかいから、良い人なのが伝わってきた。

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