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第13話

この世界に来て動物病院以外で、初めて伊織と出掛けることになった。 そんな休日の朝。 伊織は、忙しなく家事をこなしていた。 天気が良いからと、いつもはできない事を片っ端からしているようだ。 布団を干したり、僕がいつも使っているクッションを洗ってくれたり、それからいつもより念入りに掃除機をかけたり。 もちろん僕は邪魔をしないように大人しくしてるよ。 どこに居るのかって? 伊織が肩にかけてるスリングの中だよ。 それは今朝の事、朝食後に伊織が小堤を出して来た。 「本当は昨日の夕方に届いてたんだけどな? 小豆を早く迎えに行ってやろうと思ってたら、コレの事すっかり忘れてたんだよ。」 そう話しながら、小堤の中の物を取り出した。 それは麻袋のようなベージュ色をしたシンプルな布だった。 「コレは、スリングって言って。ココに小豆が入れるようになってるんだよ。」 ショルダーバッグのように肩にかけて、弛んだ布の部分に僕を収めた。 見た目からは、硬くてもっとゴワゴワしているのかと思ったけど、スリングの中に入ると伸縮性があって通気性も良さそう。 そして何より体を包み込むフィット感が最高だった。 リュックサックより断然こっちの方がいい! リュックサックの時は背中側で、伊織の顔は全然見えなかったし。 そんなこんなでお気に入りとなったこのスリングに入って、伊織が家事をこなすのを見守っているというわけだ。 「よーし!終わった。」 時刻は10時を回ったところ。 伊織がしていた家事も一段落ついて、これから役場までお出かけだ。 伊織の運転する車に乗るのも今日が初めて。 助手席に置かれたふかふかのベッドの上に乗せられて、僕は準備万端!いつでも出発できます。 初めて乗った伊織の車は、とってもいい匂いがしていた。 芳香剤の香りなんだろうけど、全然キツくなくて爽やかな落ち着いた香りだった。 家に一旦荷物を取りに戻っていた伊織が戻って来て、漸くエンジンをかけた。 安定した運転速度と暖かな陽気に僕の周りに睡魔が漂い始めた…。 伊織とのドライブを楽しみたいのに寄ってくる迷惑な睡魔から逃れ、運転中の伊織を助手席のベッドから眺めた。 シャープな顎ラインと優しげな眼、そして揉み上げを刈り上げた艶やかな黒の短髪。 珠希さんみたいな少しやんちゃなイケメンと言うよりかは、伊織は爽やかな雰囲気の知的なイケメンと言った感じだ。 お風呂上がりに黒縁メガネを掛けている時なんかは、今よりもイケメン度が割増する。 車は僕には分からない英詞の曲が流れていて、時折伊織がハミングしていた。 僕たちの乗る車は、住宅街を抜け大きな建物が建ち並ぶ街の中心部までやって来た。 初めて見る景色に僕の好奇心が掻き立てられる。 次々と目に入る景色がもっと見たくて、立ち上がり窓ふちに手をかけ外を眺めた。

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