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第12話

ネコに特訓と称したスパルタ指導を受けた夜、店を閉めた後に病院に迎えに来てくれた伊織と約半日振りの再会を果たした。 伊織と暮らしだして、あんなに長い時間離れた事がなかった事もあり、今朝怒っていた事もすっかり忘れて無我夢中で甘えていた。 その後珠希さんとネコそれから伊織を含めた4人で、初めて一緒に夕飯を食べた。 もちろん腕をふるったのは伊織だ。 和気あいあいとした雰囲気の中伊織の膝の上で、伊織の作ってくれた絶品ビーフシチューを食べた。 ちゃーんと伊織に食べさせてもらったもんね。 伊織が居るから、ネコの「あーん」は受けてやんない。 「次、にんじんね。」 小さくスプーンで切り分けたにんじんを冷まして口元に運んでくれる。 それも僕の食べやすい丁度いいタイミングで! 伊織に食べさせてもらうのは慣れたもんだ。 「あ~、そうだ。伊織、獣人手形って知ってる?」 「獣人手形?…獣人を連れてると、割引してくれるのか?」 夕食中に珠希さんが、話し始めた獣人手形。 珠希さん曰くこの世界で、まだ人間の姿になれない獣人が、公共交通機関や飲食店などのペットが入れない場所でも、入店許可を得られるようにした物が獣人手形と言うパスカードなんだって。 「まだ小豆ちゃん、人間の姿になれないから申請して獣人手形受け取ってた方が、今後の生活にもいいと思ってね。一応ネコも持ってるんだよ。ね?」 「あ?いちいち話しを振ってくんな。…獣人手形なんか1回も使った事ねぇーけどな。」 「へぇー。そんな便利なカードができてんだな。」 「動物愛護法と、ここ数年でできた獣人保護法って言う法律。力の無い獣人を社会的に保護するやつね。 だから最近は、獣人だと証明できるように獣人手形を持つ者も増えてて需要は高いんだよ。」 「なるほどな…。明日ちょうど定休日だから、役場に行って作って来ような。」 ワンっ! (うん!) 獣人手形を発行して貰うと、伊織と色んな所に出かけられるようになるみたい。 いつか人間の姿になれる日まで、きっとかなりの確率でお世話になるんだろうな…。 夕食の後片付けも一段落ついた頃、伊織がそろそろ帰ると言った。 「今日は、小豆の面倒見てくれてありがとう。」 「おう、気おつけて帰れよ!おやすみ。」 帰りもリュックサックに入れられそうになって拒否したら伊織は、「仕方ないなー。」と嬉しそうに言いながら抱きかかえてくれた。 外は、少しひんやりとしているけど、伊織の腕の中は温かくて安心する。 見上げた夜空には無数の星が瞬いていた。 真下から伊織の整った顔を見上げていると、それに気づいた伊織が、額にチュッとリップ音を立て軽く口づけをしてきた。

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