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6.疑惑は8
これまでのことは全部忘れて、明るい陽の光を浴びて生きてく前向きな気持ちが湧いてた僕には、亮との再会と〝荷物〟が重くのしかかった。
結局りっくんのための買い物が出来なくて、ただの最悪なお散歩になっちゃったし。
一張羅を着てたら外に出たことがバレちゃうと思い、急いで部屋着に着替えてお散歩の証拠隠滅を図る。りっくのための外出じゃなくなったから、これがバレたら叱られると思った。
「……リスカしたい……」
りっくんの帰りを待つ間、まるでふて寝みたいに布団の中で丸まった僕は、呟いて膝を抱えた。
どうしても贅沢だと感じて、一人の時は未だにスイッチを押せない暖房と電気。寒くて真っ暗闇の中で居るとおかしくなっちゃいそうで、こうして布団に包まってみたんだけど……。
いつまで経ってもあったまらなくて、手足が凍りそうに冷たかった。
気分もホントに最悪で、リスカ痕がたくさん残ってる左手首をギュッと握る。
体を傷付けそうな物は、僕が騒いで以降りっくんが全部撤去したからどうしようもない。ODしたくてもブツが無いし、りっくんに言われた通りこういう時は寝てしまうに限る。
布団に包まっても絶対に眠れない時だってある── 冷たい足先をすり合わせながら、そんな不貞腐れた思いで目を瞑っていた僕は、所詮ガキだった。
「──冬季くん、冬季くん」
「……ん、……」
優しい声と大きな手のひらで頭を撫でられて、目を覚ます。
いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。
真っ暗闇の中にぼんやりと人影が浮かんでいて、それがりっくんだと気が付くまでたっぷり三分はかかった。
「……りっくん?」
「起きましたか。ただいま帰りました」
「あ……ごめん、寝ちゃってた……。おかえりなさい」
絶対眠れないなんて不貞腐れてたのは、どこのどいつだって感じだ。
りっくんからの電話にも気付かないくらい深く眠ってた僕は、苦笑しながら体を起こした。
ベッドサイドに腰掛けたりっくんにもう一度「おかえり」と言うと、ふわっと微笑んでおでこに触れてくる。
「珍しいですね、この時間に寝ているなんて。具合が悪ければ無理して起きなくてもいいんですよ。起こした俺が言うなって感じですが」
「ううん。……大丈夫」
具合は全然悪くない。ただ起きちゃうと最悪な気分がぶり返してきちゃって、明日が憂鬱で仕方ないって思いが渦巻くだけ。
でもさすがに、元カレのことはなんとなくりっくんには言いにくい。ホントに〝なんとなく〟なんだけど。
熱がないかを確認したりっくんの手のひらが、僕から離れていく。それからりっくんは、ベッドルームの電気を点けて辺りをぐるっと見回した。
「……ん? もしかして冬季くん、外出しました?」
「えっ? なんでっ?」
「新しい服を着ましたよね?」
「あ、いや、あの……! お散歩に行っただけだから……っ」
「一人での外出は禁止のはずですが」
「…………っ」
りっくんは名探偵だ。
ちょっと部屋の中を見回しただけで、なんでそこまで分かるんだ。一応証拠隠滅したつもりだったのに。
バレちゃったからには白状するしかないけど、やっぱり外出禁止の約束を破ったことにりっくんはかなり怒っている。
元々ハイスペイケメンなりっくんが怒った顔をすると、めちゃくちゃ迫力があって怖い。
だけどそれは約束を破った僕が悪いって自覚があるからか、体は震えはしなかった。亮みたいに高圧的な言い方ではないし、何より理不尽に叱られてるわけじゃないからだと思う。
外にはヘンな人がウロついてるかもしれない、〝心配〟だから一人で出歩かないで……とりっくんからは外出禁止の理由をきちんと説明されてることも、僕の中では大きい。
「えっと……」
白状するなら最初からだよな……と指をモジモジさせていると、エントランスからのインターホンが鳴った。
立ったまま僕をムムッと見下ろしてたりっくんが、ふと顔を上げる。
「あ……ちょっと待ってください。郵便物を受け取ってきます」
「う、うん」
腕を組んだお説教モードだったりっくんがベッドルームを出て行くと、僕はほっぺたに両手を添えて「こわぁぁ……っ」と感情を顕にした。
正当な理由があっても、たぶんこれは僕……お説教される流れだ。
そして数分後、封筒を手に戻ってきたりっくんは、こんな時間に届いた郵便物よりも約束を破った僕のお説教を優先した。
「……すみません。それで、外出をした理由は?」
「えっ、だ、だから、お散歩に……」
「外のお散歩は、俺の帰宅後に一緒に行こうと言ってあります。冬季くんはその約束を守ってくれていました。それなのに突然そういう衝動に駆られたとは考えにくい。どういう事ですか」
「それはその……っ、買い物に行こうと思って……」
「買い物? 何が欲しかったんですか?」
「りっくんの二日酔い予防のドリンク。最近毎日お酒飲んでるから、心配で……」
「えっ……!」
正直に話すと、りっくんのキリッとした表情が一瞬にして破顔する。
分かりやすく機嫌を直したりっくんは僕のそばにスチャッと腰掛け、さらには「俺のためにっ?」とこないだみたく手放しで喜んだ。
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