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10.君のプライオリティ18※

◇ ◇ ◇  李一は、男性同士の性行為についての情報収集を、歯科大学受験時よりも熱心に取り組んだ。頭の中で冬季には裸になってもらい、イメージトレーニングも入念に行った。  冬季に相当な負担がかかる行為だと知ってからは、まずは彼に経験の有無を問わなくてはならないと胃をキリキリさせていたが、なんと彼はそこを許したことがないらしい。  李一は舞い上がった。  冬季にとっての最初で最後の男になれるとは思わなかったのだ。  ただ、初めてとなると念入りに解さなくてはならない。冬季がたとえ経験済みであっても、彼を大切にしたい李一は性急に求めるつもりなど毛頭無かった。  狭くなっているから、李一の手で解してほしい── そんなことを甘えた口調で言われてしまうと、これ幸いとばかりに拡張グッズを持ち出してくるのも致し方ない。その足取りも軽やかだった。  キスは李一が初めてだったと言う。おかげで舌が絡み合うことはなかったが、冬季の恥ずかしそうな表情と、呼吸の仕方を知らない初心さにまんまとあてられた。  過去の輩達との思い出など一切合切塗り替えるほどに、時間をかけてじっくり愛してあげよう。  浣腸とローションを手に、李一はそう決意した。  しかしまさか、意気揚々とベッドに舞い戻った瞬間に、発情した猫よろしく飛び掛かられるとは思ってもみなかった。 「── ふ、冬季くん……っ!」 「なに?」  李一は、自身の股間に顔を埋めようとする冬季から必死に逃れようとしている。  飛び掛かってきたと思いきや、冬季は軽い身のこなしで四つん這いになり、少しの躊躇も見せずに李一の寝間着と下着をはぐった。  すでに半勃ちの性器が、ほんの数秒で冬季の手によって暴かれてしまったのだ。 「なに、じゃなくてですね……! ど、どうして俺がこんな事に……っ」 「りっくん、じっとしてて」 「待ってください! ちょっ、冬季く……っ」  可愛い声でおそろしい事を言うなと、李一は冬季のおでこに手を添えて抵抗を試みた。だが絶妙な力加減で性器を握られ、あえなく李一の抵抗は無駄に終わる。 「くっ……!」  とても男性らしくない小さな手のひらで、見慣れた自身が上下に扱かれている。自慰さえご無沙汰だったせいで、それはみるみる育っていった。  慣れた様子で男性器を楽しげに扱いている冬季が、早くも先走りを滲ませるつるんとした先端に吐息を吹きかける。  刹那、まさか咥えられてしまうのではないかと、李一は盛大に焦った。  直視するには、あまりにも刺激が強い。  そして思った。  これから冬季の体を堪能するのは、李一の方だったはずだ。  飛び掛かられた衝撃で、持っていた浣腸とローションは無惨にもベッドの下に転がっている。  冬季の体を拓き、少しばかり首筋や乳首を堪能させてもらう魅惑の予定が、いつの間にやら口淫の危機である。  李一の計画に、このような項目は無かった。  本来なら、まずは冬季の全裸を拝ませてもらい、ゆっくりと優しく指先で身体に触れ、うまくいけば唇での愛撫を施す。悲しい記憶を呼び起こす痣には、罪の意識と情愛を持って口付けたかった。  冬季の頬が上気し、李一にすべてを委ねてもいいという言質を取った後は、彼の了承を得てアナルを洗浄する。彼は嫌がるだろうが、問答無用だ。  浣腸を使用するのか、シャワーを使った方がいいのか、その選択だけは冬季に委ねよう。つつがなくそれを終えたら、狭くなっているという穴に触れさせてもらう。アナル専用のローションをたっぷりと人差し指に纏わせ、冬季の顔色を伺いながらじわりと挿入する……。  そこはどんな具合なのか、どの程度の〝狭さ〟なのか、温かいのか、それとも案外ひんやりとした心地なのか、性急には求めないと誓っておきながら、欲求不満に違いない李一はそんな淫らな妄想だけで下着が張り詰めていた。  冬季と共に快感を探っていく愛の作業を、李一は彼への好意を自覚してからというもの待ち望んでいたのだ。 「……っ、冬季くんっ! ま、まさか咥え……っ?」 「舐めてもいい?」 「えぇっ」  こんなはずでは……と意識が遠退きそうになった李一の性器から、冬季は離れない。あげく、なんとも愛らしく首を傾げている。  とはいえすぐさま、理性が〝よくない〟と頭の中で返事をした。  相手の口腔環境が気になって口淫を拒んできた李一は、まさに職業病だった。  いかにも舐めたくてうずうずしている冬季を、ガッカリさせたくはない。すると欲望がうまくアシストしてくれた。  李一は、冬季の口腔内を何度となく見ている。触りもした。彼は歯石の沈着もほとんど無く、現段階ではカリエスはもちろん治療の形跡も無い。  模型のように素晴らしい歯並びであり、舌も綺麗だ。  それに何より、冬季が李一の性器を舐めたがっている。人差し指と親指で先走りをつまみ取り、李一に見せつけるようにして糸を引かせ誘ってくる。 「う、っ……!」 「……きもひい?」 「気持ちいい、ですが……っ、あの、っ……うっ……!」  欲望が勝ってしまったおかげで、李一は天井を仰ぐ羽目になった。温かく綺麗な舌が、そこに唾液を馴染ませるように亀頭をペロペロと舐め始めたのだ。  その刺激に耐えかねた性器がビクン、と派手に揺れ、さらに膨張し筋張った。  質量の増した性器を冬季は両手で大事そうに握り、丹念に舌を動かしている。男らしく張った裏筋を強めに舐め上げられると、李一は息を詰めて吐息を殺すしかなかった。  この、男のいいところをすべて熟知していそうな巧みな舌使い。  李一は目を細め、淫らに、そして夢中で性器を舐め回している冬季を見下ろした。  彼は……明らかに慣れている。 「先っぽ舐められるのと、奥まで咥えられるの、どっちが好き?」 「えぇっ!? いや、そんなの分からな……あっ、こらッ! 冬季くん、だめです……っ、そんな……! くっ……!」  李一が希望を言うまでもなかった。  大きく口を開けた冬季は背筋を伸ばし、李一の性器を豪快に含んだ。  ディープキスは逃げ惑うわりに、口いっぱいに頬張った李一のものには喜んで舌を這わせている。  粘膜に包まれた性器が一際喜び、思わず彼の喉を突いてしまいそうになる衝動を堪えるのに必死だった。  すると一分と経たず冬季の唇が性器から離れていった。一瞬残念な気持ちになった李一は、どれだけ拒む気持ちがあろうと所詮は男だ。  口淫をやめただけで、未だ李一の分身は冬季の手中にある。先端のみだが、欲情するには充分な温かさによって李一のそれは完全に勃起していた。  暴かれた十分前よりもさらに太く長くなった性器を、冬季がまじまじと見つめていて恥ずかしくなる。 「……りっくん、……おっきくない?」 「何がですか……!」 「ナニが」 「なっ、なに……って、普通ですよ! ……あぁ、いや、誰かと比べたことがないので分かりません!」 「んー……」  口淫経験が豊富らしい冬季は、会話の最中もじっとしていてはくれない。  李一のモノが少々立派だからと言って見つめては扱き、見つめては舐め、時折李一に視線を寄越しての上目遣いで先端を咥え、李一の正気を崩しにかかる。 「りっくん、見て?」 「うッ……!」  またか、と李一は目を細めた。  性器に両手を添え、大きく口を開けた冬季が「見ててね?」と念を押す。 「僕がめいっぱい口開けてギリギリの太さなんだよ? 長さだって、たぶん喉の奥まで入れても余っちゃうから、根元は手使うけど許してね?」 「は、はいっ? あっ、こらッ、冬季くん! 俺はもういいので君のお尻を……っ」

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