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10.君のプライオリティ19※
はたしてそれは、李一の制止の声など聞こえないほど美味しいのか、単に口淫が好きなだけなのか、冬季はまったくもって聞く耳をもたない。
足りないところは手で、と頬を赤らめながらも冷静に語った通り、冬季は李一の性器を咥えたまま両手は根元部分に添えられている。そればかりか、悪戯に睾丸もふにふにと揉まれた。
李一がどれだけ優秀な理性をかき集めようと、抗い難い直接的な刺激と視覚の暴力は簡単にそれを打ち崩してしまう。
「ふ、冬季くん……っ! もうだめです、本当に……っ! 離れてくださいっ」
「やら」
「咥えたまま喋……っ!」
「んむっ……」
まったく力の入らない手のひらで、いくら冬季のおでこを押し戻そうとしても無駄だった。
かえって冬季は深く飲み込もうとし、嫌だと首を振って李一の筋張った性器を歯先でチカチカと刺激してくる。
意図しない先走りが溢れ出ている自覚はあったが、短い舌が難無く舐め取って彼の喉仏を揺らしていた。
昂った自らの性欲そのものを、冬季が飲んでいる。平均よりも〝おっきい〟それを口いっぱいに頬張り、美味そうに舌を動かす様は扇状的としか言いようがなかった。
「ぷは……っ。ねぇりっくん、何日溜めてるの? エッチなお汁がたくさん溢れてくる……こんなに飲んでちゃお腹いっぱいになっちゃうよ、僕」
「そ、そういう事を言わないッ! 興奮するじゃないですか!」
「はむっ」
「うぐ……っ!」
急に性器から離れたかと思えば、李一の心を弄ぶかのように興奮を煽り、すぐにまた温かな口内へと誘われる。
もう長くは保たない、……そう思った。
「冬季くん……っ、俺も君を愛したいのですが……!」
「まっれ。もうふほひ」
「咥えたまま喋らないでください〜〜!!」
じゅる、ぴちゃ、と粘液を舐め取る卑猥な音と光景、握って扱くだけでは到底得られない性器へのダイレクトな刺激を何分間も受け続けている李一は、まさに必死で果てるのを我慢していた。
忍耐強い方ではあるが、このままでは冬季の巧みな口淫によって彼の綺麗な口腔内を汚してしまう。「美味しい」などと淫らな表情で精液を飲み干されてしまっては、年長者として立つ瀬がない。
「んっ、んむっ?」
冬季の両頬に手を添えた李一は、少々強引に彼の口から性器を引き抜いた。その際窄んだ唇で竿から先端にかけてを扱かれてしまい、「クッ」と奥歯を噛み締めることにはなったが。
思った以上に温かかった口腔内に若干の名残惜しさを感じた李一は、やはり自分も男なのだなと苦笑する。冬季の唾液で艶めいた自身のモノが、あからさまに喜び勃っていた。
突然口淫を中断させられた冬季は、「どうしたの?」と不満そうな視線を李一に向け、手の甲で唇を拭った。
「冬季くん……俺のこれ、そんなに美味しかったですか?」
「うん。おっきいからちょっと大変だけど、りっくんのエッチなお汁たくさん飲めて幸せだよ。ホントは全部……飲んでみたかったのに」
「……無邪気に誘わないでください……」
「え? ……んっ」
自覚があるのか無いのか、冬季は節目がちに、さも残念だと言わんばかりに下唇を尖らせた。
まったく、と苦笑を濃くした李一は、尖った唇にちゅっと口付け、冬季を押し倒す。
「今度は俺の番です」
「あっ……りっく、ん……っ待って、脱ぐのは……っ!」
「悔しいので今日は開発しません。君の体を、……とにかくたっぷり愛したい」
「あ、りっくん……気持ちよくなかった? ……ごめ、……んっ」
触り心地の良いパジャマに手をかけると、冬季はそうはさせまいとかなりの力で抵抗してきた。あげく突如として口淫に自信を失くし、胸元をぎゅっと握って李一を不安気に見上げている。
裸を見せたくないと抵抗する気持ちは分かるが、謝罪される謂れはない。
先ほどまでの誘うような目付きから一転、押し倒された冬季の瞳は瞬く間に揺れた。
「どうして謝るんですか。気持ちよかったですよ。あのまま続けられていたら五分と保ちませんでした。かなり上手ですね」
「りっくん、なんで急に怒って……んぁっ!」
腹が立つのは、冬季が少なからずそれに自信を持っていた事を窺わせる発言と、積極的な態度だ。
上半身を庇っている冬季の隙をつき、李一は嫉妬心を顕にズボンと下着に手をかけ、一緒くたにずり下ろしてしまう。
「あっ」と声を上げ拒む力の緩んだ冬季の両手首を、李一は目にも止まらぬ速さで取り自由を奪った。今日の目的が変わった以上、上半身を晒さなければ愛してやれないと、冬季を見つめる李一の瞳にも熱がこもる。
「妬いてるんですよ。君をここまで仕込んだ過去の男達に。こんなに可愛い唇で……いったいどれだけのモノを咥えるとあんなに上手になるのか。悔しいです。……非常に」
「あっ……りっくん、それ以上はダメっ……! 僕おっぱい無いから……!」
冬季の両手首を拘束している左手を彼の頭上に置いて押さえつけ、右手のみで易々と衣服を剥いだ李一は眼福の光景に一瞬息を呑んだ。
想像していた裸体よりも、数倍は綺麗だったのだ。
暗闇に慣れた眼が冬季の不安を一蹴すべく凝視に入り、李一は猛った自身が疼いたのを自覚した。
この期に及んで膨らみの有無を気にするとは、冬季は李一の覚悟を甘くみている。
「……ありますよ、小さな乳首が二つ。可愛いです、……とても」
「…………っ」
「舐めても?」
「だ、ダメ……っ! あっ、りっくん! ダメだったら……っ、ひゃんっ……!」
人差し指で小さな突起を掻き、すぐにツンと立ち上がる素直なそこへ李一は舌を這わせた。その瞬間、ビクンと体を震わせ背中をしならせた冬季の反応に、思わず李一の口角が上がる。
「冬季くん、ここは誰かに許しましたか?」
「んっ……はぁ、やっ……っ」
「気持ちいいんですか?」
「ん、ん、分かんな……っ! だってりっくんが、初めて……舐めてくれた、から……っ」
「え……」
そうなんですか、と心の中で唖然とした李一は、舌先で両方の乳首を交互に舐める度に啼く冬季の声に、盛大に煽られていた。
それと同時に、彼らの性事情についての謎が深まる。冬季はいったい何を経験していて、何が未経験なのか、本当によく分からなかった。
ともあれ、この初々しい未開発らしき乳首を李一が一から育てられるのかと思うと、否が応にも興奮が高まる。
左の乳首を舌で転がし、唇で甘く食むと、くすぐったそうに身を捩る冬季のこれにも開発が必要そうだと判断した。
「ここも一緒に触ってあげますね。乳首を開発する際は、強い快楽を共に与えてあげるといいそうです。君の手腕には負けますが」
下半身が切ないのか、冬季がモジモジと足を動かしていたのは知っていたので、彼の中心部にそっと触れて乳首への愛撫を継続する。
「も、りっくん……っ! いじわる言わな……あぁっ、やだ、あっ……!」
「本当に〝やだ〟ですか? 俺のお腹に押し当てて、こっそり擦ってるのに?」
「だ、って……! りっくんが怒ってるんだもん……っ!」
「また君は……」
李一のモノとは明らかに質量の違う冬季の性器は、握り込むだけで顎を仰け反らせるほど気持ちがいいらしい。
初めて乳首を愛撫され、そのうえ李一が静かに嫉妬心を滾らせているせいで、冬季はより敏感になっていた。
「好き、りっくん……っ! もっと……僕のこと、叱って……っ」
「…………っ!」
性器と同時に愛することで、乳首も容易く性感帯になり得るという情報は間違っていないどころか、覿面のように見えた。
そう何分も触れていないのだが、冬季は早くも腰をゆらゆらとさせていて落ち着かない。拘束した彼の細い手首にも力が入っている。
冬季が気にしている痣を愛する間もなく、ビクビクと揺らいでいる小ぶりな性器が堪え性なく李一の手のひらを濡らし始めていた。
しかしながら、まさかもう達する気なのかと李一は余裕ぶってはいなかった。
想像など、たかが心象に過ぎない。
実際に目にした裸体、昨晩より高い冬季の嬌声は思い描いていたものとは大幅に違った。
「一緒に扱きます。冬季くん、今度は逃げないで」
「ひぁ……っ、ん……!」
すでに口淫により間近だった自身が、激しく情欲をそそるような場で放っておかれて泣いていた。
李一は自身と冬季の性器を右手で握り、誘うように舌を出して彼の唇めがけキスを迫る。
冬季の舌を追いながら、長さの違う性器を扱く李一は目を開けていられない。
自慰のようでいて相手の居る行為に、何も考えられないほどに興奮していた。
逃げずにはいてくれたが、性器を扱かれて気もそぞろな舌が可愛くてたまらなかった。
何一つ目的を達成していないというのに、予定通りに進まずうまくいかない事さえ〝俺たちらしい〟と思った。
「あっ……熱、い……っ! んんっ……! んっ、んっ……── っ!」
互いの先走りが擦れ合い、卑猥な音を立てていた。
温かな手のひらで扱くことものの数分、冬季は甲高い声で絶頂を知らせ、舌を噛まれそうになった李一は慌てて唇から離れてラストスパートをかけた。
ビクンッと冬季の腰辺りが跳ねたと同時に、「ンッ」と低く呻いた李一の腰もガクガクと震える。
薄い腹に濃厚な精液を散らせていると、久しぶりの射精だからかなかなか腰の震えが止まらなかった。
「……叱って、だなんて……。俺が妙な性癖に目覚めたらどうするんですか……」
ひっしと冬季を抱きしめた李一がそう零すも、彼の恋人は薄く笑ったのみですぐに力尽きてしまった。
寝るにはまだ早いと誘惑してくれておきながら、一時間弱の行為で早々に李一を置いていくとは──。
これこそが彼にとっての最大の我儘かもしれないと、李一はまったくもって衰えない自身を無言で見下ろし、何度目か分からない苦笑を浮かべた。
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