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潜入捜査はよそでして
「こんなこと、ばれたらつるし上げられる未来しか想像できない…。」
文化祭当日、青く澄み渡るような気持ちのいい天気のはずだが、心境は真逆の変化をあらわしていた。
ただより高いものはない。そのような言葉を残した先人も、きっと同じような気持ちであったに違いない。
「きいちに足りないのは遊び心だな。」
「遊び心にしてはデンジャラスすぎるでしょ!」
僕のジャージを身に着けた俊君は、楽しそうに校内の出店案内を見つめている。
何故彼がこんな 忍び込むかのように同じ高校のジャージを身に着けているかというと、この事態を招いてしまった僕自身が原因である。
僕が文化祭のことを告げた日。俊君が提示してきた交換条件がこれだったのだ。
「きいちのジャージかしてくんない。」
「ジャージ?使ってないのあるからそれで良ければ。」
「ん、それでいーよ。」
「んひひ、なににつかうの?」
何を思いついたのかはわからないが、俊君がやけに楽しそうにしていて嬉しい。
久しぶりに会ったということもあるけど、やっぱりこんなふうに笑う俊君が好きだと思う。
「タノシイコト。洗って返すよ。」
「おっけー!」
全然おっけーじゃない!!!!!!
あのときの僕に言いたい!全然おっけーなんかじゃないんだよ!!!おい!!
文化祭当日、校門前で待ち合わせた僕は、姿を現した俊君の姿に卒倒しかけた。
踏みとどまったのは下手に反応して変に注目されるのを避けたからであるが、もうこの時点で俊君の術中にはまってしまったのである。
「今日一日ばれないようにするわ。」
「ししししししゅんく」
「きいちはきいちで楽しんでくれ。」
めちゃくちゃ似合ってるし爽やかだし、うちの高校のもっさいジャージをお洒落に着こなす俊君にいろんな意味で釘付けだよ!
じゃ。と人ごみに紛れて立ち去ろうとした彼の首根っこを掴み、あわてて校舎裏まで引きずってきて現在に至っている。
走ってきたから息切れがしゅごい。
体育でもここまで全力で走ったことないのに、僕にここまでさせるとは流石である。すき。
というか、俊君がそこまで思い切りのいい楽しみ方をするだなんてわかっていれば絶対にこの事態は避けていた!
「ストレス性胃炎もちの僕に対する挑戦状ですか。」
「素直に楽しみたいだけだぜ?」
「楽しむベクトルが間違ってんだよなぁもう…」
ケロッとしている俊君の姿になんだか焦りまで削がれていく。当の本人が平気そうな顔をしているのが些か不服ではあるものの、起きてしまったことは仕方がない。閉会式が行われる十五時までなんとか逃げ切ってもらうしかない。
「いいかい、こうなったものは仕方ないから、部外者だってばれないようにしてくれよ。」
「生徒指導に見つかんないようにすればいいだろ?」
「緒方っていう野球部の顧問だけは気を付けて。」
僕は緒方がどれだけ面倒くさいやつなのか、懇切丁寧に説明した。どういう見た目で、過去にどんな罰則を与えたかも含めてだ。
「とりあえず理解した。ただ眉毛剃っただけで反省文5枚なら、俺は完全にやばいな。」
そういった俊君は眉毛にまで気を使うおしゃれ男子である。ワックスをもみ込んだ前髪をうまい具合に調整して、なんとかカバーしてもらう。フロント重めのヘアスタイルは、さながら韓流アイドルのようである。
「そもそもうちの学生じゃないのに反省文書かせたら、緒方だってある意味伝説になっちゃうでしょ。」
「ほう…」
「ひらめいたみたいな顔するな!」
きゅうきゅう泣きわめく可哀想な胃をなだめすかしながら、なんだか前もこんなギリギリのラインを攻めた感じで遊んだことを思い出す。
めぼしい露店に赤丸をつけ、楽しむ気満々の俊君を一瞥し、自分自身も少なからず抱いてしまった高揚感を、俊君の頭を叩くことで誤魔化した。
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