18 / 268
実行委員は暇じゃない。
文化祭実行委員としての任務は、滞りなく運営をし、参加する人達に楽しんで帰ってもらうことだ。
もちろん、運営に回る以外にもみんなのクラスの催しが競えるように、各クラスで選抜を一人決めてミスコンに出てもらい、クラスの宣伝もしてもらう。
一位になると何がもらえるかというと、食券だ。
お弁当組は嬉しいかわからないが、高校生にとっての一週間の食券は魅力的である。
そしてミスコンもただのミスコンではない。
女の子が少ないので女子参加はないのだが、その代わり男子が場を盛り上げる。
クラスにいる、化粧映えしそうな男子を一人生贄にして、数少ない女子がプロデュースした男の娘として壇上に立つのだ。
良くて声援、悪くて阿鼻叫喚である。
そして何故か味をしめた男子が文化祭後から男の娘にメタモルフォーゼするのだ。
可愛ければいいんだ、場も盛り上がるし。
でも目覚めちゃったりのりに乗っちゃったのが体育会系だともう、オネエさんになるのだ。
ちなみに前年は可愛い子とオネエさんの比率が2:8というミスコンの審査内容と審査員のメンタルに支障をきたすという事件が起きたので、事前に参加者の写真や所属する部活などを提出してもらっている。
「今回は大丈夫そうかな…」
「きいちのクラスは誰がでんの?」
「高田ちん。柔道部の姫。」
「じゅうどうぶのひめ…」
高田ちんとはきいちのクラスの心優しい男子である。
こ柄でまつ毛が長く、お目々もぱっちりの筋肉ダルマだ。
まじ高田ちんはすごいぞ、柔道黒帯だし父ちゃん警察官だ。身長は小さいけどカツラ被せたらまじで首から上だけ美少女になったのだ。
下は何も言わん。キグルミでも着せておけと満場一致の意見だった。それでいいのか我がクラス。
「顔だけなら食券狙える。」
「何の服着るの?」
「キグルミ。首から下だけ。」
「なんだと…」
写真部の益子をカメコ代わりに招集したので、あとはミスコンが始まったらブロマイド撮りまくり量産しまくり販売しまくりで売上は来季予算にする所存だ。
益子はカメラマンを目指しているので、よくイベントにでかけてはカメラ片手に可愛いコスプレイヤーなどを撮影してるらしい。
きいちはそれを聞いたときに巻き込むことを決めた。
「ちなみに、2組は吉崎がナースをするらしい。」
「え!?吉崎が!?けしからん抜ける気しかせん!!」
「吉崎多めに撮れば売れるー!たのんだぞ益子!!」
吉崎は体育会系から深窓の姫と呼ばれている生徒会書紀だったような気がする。だったような気がするなのは、きいち自身があまり他人に興味がないからだ。
「プログラム的にはこのあと軽音楽部が盛り上げてくれた後にスタートだから、参加者はそろそろくるはず、」
実行委員として進行表をみながら機材の準備をしていると、不意にスマホがなった。
「あいあい、」
「きいち?今どこにいる?」
「きいちは今体育館でミスコンの準備してる。」
電話の相手は俊君であった。採算注意をして解散したので、きっと何事もなく無事でイベントを楽しんでいると信じたい。
俊君は、あーー、などと迷うような声を出したので、きいちは不審に思いながらもトラブルが起きたのかを確認した。
「えっ、なにどしたん…」
「いや、なんかナース服きた子が暴れてて」
「は?」
「いやだから、3組でね?」
いわく、俊君が文化祭を楽しく回っていた所、お化け屋敷をやっているであろうクラスからナース服をきた男の子がキレながら飛び出してきたらしい。
俊君が呆気にとられて見ていると、クラスメイトであろう男子が慌ててきいちに連絡しろ、と言われたので今に至るということらしい。
「ナース…吉崎か?」
「いやしらんけど。」
「ですよね!んーと、わかったいまいく。」
なにやら電話越しに大乱闘でも起こしているのかと言わんばかりの大胆な音がしていた。
むん、と悩んだ挙げ句、益子に進行表を押しつけてひとまず俊君のもとに向かうことにした。
ていうか部外者だと気づかれないくらいには馴染んでいるのか…と、うちの高校生はこんなザルセキュリティで大丈夫なのだろうか…と遠い目をした。
ともだちにシェアしよう!