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内側を映す
「キャァァァアア!!!」
絹を裂くようなかん高い声を上げて、周りの注目を一身に集めたのは、他でもない益子である。
「エッチ!!もう!!きいちさんのえっち!!ばかきらい!!!」
「はぁ!?益子がそんなとこで着替えてるからいけないんじゃんか!!」
「いやぁあ俺のおっぱいみないでぇええ!」
「誰かそんな甘納豆みたいな乳首に勃つかァ!」
文化祭がおわってから三日、僕は益子のいる写真部に先日の文化祭で撮影した写真を受け取りに来ていた。
もちろん愛しの親友俊くんの為に、彼が写ったものと、あの後吉崎もいれた3人で撮影したもの。
益子も一緒に映らないかと誘ったんだけども、タイマー設定より自分の腕を信じるとのことで今回は撮らなかったのだ。なにそれプロい。
「僕が来るってわかっててなんでそこで着替えるかな!?びっくりしたわまじで!」
「え、俺の乳首甘納豆?ほんとに?」
「もーさっさと前閉じろよぉー!ほら現像したやつもくれ。」
「無視?嘘でしょ?甘納豆っていっといてそこはもう触れないの?嘘でしょ?」
せめてもっと別のものに例えられないのか…と胸元を隠しながら絶望しているが、自分自身の語彙力がないのと、物事のたとえを素直すぎるくらいにビシバシ言うよなと俊くんのお墨付きもあり、今後もお世辞方面での成長は期待できないだろう。すまんの。
「あったあった、ってうわぁ…」
3人の集合写真の右上に益子の履歴書のように整った写真が小さく貼られている。修学旅行やイベントに行きそびれた奴らが受ける仕打ちを自らに科すセンスは流石だ。
「それおもろくね?俺的になかなかのギャグセンスだとおもっている。」
「右上の益子の主張のせいで爽やかな青春写真を淀ませてるよ…」
なにその真顔!と突っ込むも、本人は、至ってどこ吹く風。飄々としてるけどほんとにこれでいいのかお前は!
「てか益子はなんで脱いでたの?」
「現像液の制作をしようとしてちょっとな?」
「ほーん、」
「全然興味ないじゃん!?」
いわく、益子は以前からモノクロ写真に興味があるようで、卒業制作として一冊の本に出来るようにしたいということだった。
僕は帰宅部なので卒業制作だのは関係ないのだが、なんだかそういうのも青春ぽくていいなと少しだけ羨ましく思う。
「カリスマ帰宅部のきいちくん。手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「あっそのうちー。」
「いつかとそのうちは一生来ないんだぜ!!」
わかる。
ひとまず益子から貰うもんはもらったので、あとはこれをわけて吉崎と俊くんに渡すだけ。んふふふ久しぶりのツーショットもあるぞ。これは生徒手帳に挟んでおこう。
まとまった写真の束は3人分ともなると結構な厚みで、なんならみんなで休みの日に遊ぶ約束でもして、そこで渡すのも有りかもななんて、え?わりとよくね?天才か自分。
そうと決まればぽちぽちとスマホを操作して吉崎に連絡をした。ちなみに登録名は読経姫だ!ここは譲らん。
「あ、学?いまどこにいんの?」
なにやら授業の途中で呼び出しがかかり生徒会の連中にドナドナされていった学は、本当なら放課後一緒に写真部に向かう予定であったのだが、その約束は守れそうになさそうだったのでしかたなく一人で来たのだった。
「え?今益子のいる写真部にいるー、おわったなら迎えに行く?」
「彼氏みたいなこという!」
「益子うるせ、ごめんなんでもない。」
学も用事が済んだのか、クラスに戻ったとのことだったので置いてきちゃったお詫びに迎えに行くことにした。益子の謎発言はまるっと無視させていただこう。僕等は男の友情なのだ!
「益子もくる?てか3人で帰る?」
「俺は読経姫と二人で帰りたい!!」
「欲に忠実なやつめ!僕も俊君とかえりたい!」
「頑張れ吉崎道のりは長いぞ…」
「え?なんて?」
イイエナニモ、と急に真顔に切り替えられるのほんとすごいと思う。益子は顔の筋肉酷使しすぎじゃね…、と余計なこと考えてると時間が立つので益子をおいて吉崎を迎えに行くことにした。
さらば益子、いつか吉崎と一緒に帰れるといいネ…!
益子はきいちが出ていった扉を見つめてひとつ、ため息を吐いた。
文化祭終わり、きいちが走り回っている最中に親しくなった俊君という、造形美の美しい同い年の男子とのやり取りを思い出していたからだ。
「なー、俊君はきいちのことすきなの?」
「ああ。ガキから一緒だったし、好意は露骨だからわかりやすい。」
「結局両想いかよ!」
「…あいつは自分の気持ちを自覚してないぞ多分。」
校門の柵に持たれ掛かりながら、何気ない一言みたいに告げられて動揺する。普通、高校生男子はこんな簡単に他人に好きな人のことをバラすのかと思ったからだ。もちろん、自分が水を向けたのも理解してはいるけども。それよりきいちが自分の気持ちを理解していないというのは、有り得そうな話で苦笑いするしかない。
「わかる。前もそんな感じだった。」
「え?あいつそんなもてんの?」
「もてる、ってか依存されるかんじ?」
「あんなちゃらんぽらんが?うそだろ…」
半ば信じきれなかったのは、浮いた話が在学中にほとんどなかったからだ。本人も、凄く優しい先輩がいる。とか言っていた。明らかに付き合っているのでは?と噂されるくらいだったのに、話を聞くと付き合ってないよ。と言われたときは動揺した。勿論、先輩もだ。結局勘違いさせたきいちが悪い、といわれて結構大事になったのは記憶に新しい。
「いいんだ、きいちは俺のだから」
「情熱的ぃ…言わんの?」
「まだその時じゃない。」
益子は初めてあったのに、まるで牽制するかのように思いを話してくる目の前の高校生が、なんだか異質なものに見えた。
お前も依存した一人なの?という言葉は口にでかけたがやめた。
ただ、言わんとしていることを理解しているとばかりに目があい微笑まれると、なんだかきいちがとんでもないやつに好意を抱かれているのでは…、とすこしだけ心配になった。
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