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家電は過去を語る

「ようこそ?」 「招かれました。」 久しぶりにきた俊くんのおうちでーすやばい懐かしい。マンションのエレベーターの落書きみてしみじみしてしまったくらい懐かしい。 三和土で靴を脱いで揃える。うちのオカンの教育の賜物だ。俊君は律儀だなと笑うけど、お邪魔するんだから尚更だ、親しき中にも礼儀ありっていうでそ。 「俊くんママは?」 「しらね、バイトでもいってんじゃね?」 「ほへぇ、久しぶりに会いたかったナ。」 揃えた靴は俊君の履いていた赤のバッシュの隣においておく。玄関に飾られた間抜けな顔のシーサーは、小学校の頃紙粘土で作ったものを一匹だけ俊くんと交換したやつだ。 可愛らしいフォルムの2匹は、片方が口を閉じ片方が口を開けている。口を開けている方が僕の作品なのだが、幸せを沢山取り込もうとしてるのかギャグのように顎が外れて見える。 「それ、懐かしいだろ。」 「顎外れてるのが僕のだよね、俊くんのシーサーのほうがくりくりしててかわいいなぁ…」 つんつんと触ると、出してくれたスリッパを履いて中に入る。飲みかけのフラペは溶けかけてどろどろだ。 水滴が床に落ちないように取り出したタオルで包みながらリビングにくると、俊くんがマグカップを取り出すところだった。 「うちにあるストローじゃ餅まで掬えんだろうし、スプーンとこれでいいか?」 「なんでもいい!ありがと!」 備え付けのキッチンで手を洗わせてもらって、マグカップを受け取る。どこかの地方のゆるキャラなのか、キモかわいいイラストだ。 僕は結構嫌いじゃないけど、俊君が使ってるイメージがなさ過ぎて思わずまじまじと見た。 「それ、うちのオカンが買ってきたやつ。」 「あぁ…すきそう…」 俊くんのママである忍さんは男嫁で、うちのオカンとも仲がいい。お互い数少ない男嫁同士で息があったのか、僕らを差し置いてよく二人で遊びに行ったりしてたのだ。 お互いの旦那が浮気を疑ったというレベルで仲良しなのだが、駄目な亭主を持つもの同士息があって何が悪い。と言われて撃沈していた。 僕のおとんもも俊くんのおとんも、アルファのくせして何処か抜けているのだ。お互い趣味の車で、意気投合し、僕と俊君も入れた四人でドライブに行ったりもしたのだが、意気投合しすぎて忘れ去られたまま僕たちだけバスを乗り継いで帰るなんてことがあったりもした。 あのときは俊君が来たことのある場所だったから助かったが、なんとか数時間後に帰ってきたときにはオカン二人が処するー!!とか言い出して大変だった。 マイルドに言い換えてみたけど伝わるだろうか。 奥さんに刺され旦那アボンとか洒落にならないので何とか俊くんとなだめたけど、俊くんのオトンが「流石男の子だな!!力を合わせて帰ってきて偉い!」と大きな地雷を踏み抜いて、それに同意してうちのオトンも頷いちゃったもんだからもう…馬鹿なのだ、仕事以外は本当に。 良かった良かったと喜ぶ二人に忍さんが言った、「車大事にするよりガキを大事にしろ!」というごもっともな怒りに我に返った二人は、お互いの奥さんが気の済むまで実家に帰るというボイコットにより地獄を見た。 うちのアルファ二人は稼ぐのだが家事はできなかったのだ。 結局オカン二人が戻ると、家電が見事に総入れ替えされていて、お陰様で?無駄な出費にさらなるゴングが鳴らされたのだがもうこの話はこれくらいにしておこう。 「うちの掃除機が自動になった経緯おもいだしちゃったな」 「あぁ、うちもあれからドラム式洗濯機だな。」 俊くんもなんとも言えない顔をしているよぉ!懐かしいね二人手をつないで帰った帰り道…はじめてのおつかいより果てしない距離だったわ。 「あのとき俊くんが居なかったら地元紙に載ってたかもしれん」 「やめろ洒落にならん。」 引きつり顔で笑ってるが、ある意味あれで鍛えられたよね、自立心が。 「正親さんは相変わらず?」 「あぁ、こないだ忍にキレられてたな。ニラとネギ間違えて。」 「相変わらず天然だな…」 「小口ネギだとおもったんだと」 「おもしろすぎるぅ…」 正親さんとは言わずもがな俊くんのオトンである。パパと呼べといってるが果たされない夢だろう。 しかし小口ネギを持って帰るイケオジか。ふむ、ありだな。 「うちの吉信も庭にミント植えてオカンが炎上してたなぁ」 「ミントはやばい…」 ハーブ栽培したくない?と言い出した時点で嫌な予感はしていたんだよなぁ。おかんがプランター買ってきたのに家庭菜園に植えちゃったせいで他のものが植えられなくなって、いまや芝生レベルでもさもさ。おかげで害虫は来ないけど、今も青々と茂っておる。 「俊くんも欲しかったらいつでもいってね?」 「なにを?」 「ミント。」 「か、んがえておくわ。」 でしょうね。正親さんが喜んでプランターに植えて俊くんママに千切られるところまで想像できたわ。 「てかせっかくうち来たんだし、どうせなら飯食ってくか?」 「まじ!?手料理!?」 「手料理ってか、まあ忍もくうだろうし…ついでだよついで。」 俄然テンションあがってきた。バイブスブチアゲとかいうんだっけか?なんか益子が滾ったときによく言ってる。 俊くん料理できるのかぁ、忍さんに仕込まれたんだろうな。いいなぁ、僕も作るけど手料理として食べてもらうにはちょっとね、見た目がね、全部茶色だから。 「エプロンしますか?」 「あ?なんで。」 ですよねぇ。

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