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ストロー事件
「え、なに?」
「お前、ちゃんと食ってる?」
ぐるりと回された手を見て俊君がなんとも言えない顔をしてくる。どうやら僕の体を心配してくれているようだが、その前に君の手が大きいんだからね!?
「いやいや、ほらこれ。」
「…はぁ。」
「なんで!?」
これで理由がわかるだろうと俊君の手を掬うようにして手のひらを重ねた。丁度第一関節の中腹位で収まった僕の手は、しっかりとした男の人になっている俊くんの手に比べるとなんだか細っこくて情けない。
追い打ちをかけるかのように、ぎゅうと指を絡めてくるように握ってくるもんだから、余計に。
「…俊くんの指カワウソみたいで可愛いね。」
「かわうそ…」
ちょっと深爪過ぎやしないかと指先をむにむに押す。雄臭い手に憧れはするが、このちっさい爪とかみてると可愛いところもあるのかと思う。
「んふふ、食べちゃいたいくらい可愛い。」
「お前が言うか…」
「んえ?」
なんもねーよ。と、若干不機嫌になりながらも諦めて手を貸してくれている。ひとしきり満足するまで俊君の手指を存分に愛で終える頃には、耳を赤らめながら無言になっていた。
なんだか最近俊君のご機嫌が不安定である。僕のせいだったらどうしようと思わなくもないが、怒られてから考える事にした。
「そろそろ出よう。周りの目が気になる。」
「周りの目?」
なんで?、と周りをみやれば慌てて逸らされた。僕と俊くんの謎のやり取りは、午後の有閑マダム達や学校帰りの学生、そしてウエイトレスさんまでバッチリ見られていたようだ。おい、パンダ扱いか!
俊君も呆れたように見せもんじゃねーっての、と、低く呟いていたが、僕はその声の良さに思わず反応してしまい、ワンモア!と気持ちを込めて見上げれば、下心はバレているとばかりに料金表を挟んだバインダーでおでこを叩かれた。解せぬ。
結局割り勘にするつもりが俊君が全部払ってくれるというスパダリ行動をして、僕はなぜかレジのお姉さんに飴をもらうという小さい子のような扱いを受けた。
「レモンがいいです…」
「結局選ぶんかい。」
「あて、」
最近小突かれること多い気がする!こんっ、て痛くない程度に頭を小突くという細やかな気遣い。
場面に応じた痛みの強弱をつけるとは…俊くんにサドの気配を感じる。イケメンでサド…悪くない、悪くないぞ…うふふいいぞもっとやれと内なる僕が客観的にもうしておりまする。
結局レジのお姉さんからはかごに入っているレモンキャンディー全部くれたぞ、いいんか。
持ちきれない分は俊くんのズボンのポケットに押し込んだ。これくらいはしてもいいと思う。
お店を出て目についた新作のフラペチーノに反応をしまくったせいか、俊くんを巻き込んでシェアして飲もうと拝み倒して無事にゲットしました。
みてこのシラタマソイソースフラペチーノショット追加ウィズあんこ生クリームマシマシ。
まあみたらし団子風味だよね普通に。んまぁ。和。マジ和。
「きいち、さっきの店でもパフェくってたよな…?」
「いや駄目でしょ、こんな新作を全面に出されちゃ買わねばならんよな誠に。」
「何キャラだよ…。」
ちうちうと太めのストローで飲みながら商店街を歩く。なんと僕と俊くんをの家は同じ方向なのだ。いいだろう!うんうん。放課後のデートみたいじゃんね?でも、朝は部活があるとかで被らないんだけどね。
かじかじとストローを噛む。これも実は八ツ橋の味がする硬めのクッキーだ。たべれるストローってやばないですか。サスティナビリティーな時代ですね。よき。
「んま。」
「別に飲み方はお前の自由だからいいんだけどさ…」
「飲む?」
「…ストロー食ったら吸えないだろ?」
絶対それ食う順番間違えてんだよなぁ…というご指摘に、最後のひとくちをサクサクいっていた僕は我に返る。
まだフラペは半分以上残っている。まさかそんな…だってアイスのコーンのようなものだと思うよね!?もしくはウエハース。
全部いっちゃったよ、ときすでに遅しと言うやつである。
「ぐ、蓋開けて直のみ…」
「やめれ、ペットボトルもうまく飲めねーのになにいってんだ。」
「うう、お店戻ってストローもらう?」
「めんどくせ、もうここまで来たら帰ったほうが早いだろ。」
たしかし。もう角を曲がればすぐなのである。むしろ俊君の家なんかそこの道路渡ってすぐだしな。僕んちのが少し離れてるくらいだ。
中学校に通うときは反対方向だったのだ。しかも近道するせいで、なかなか会う機会がなかったし。
今更ながら角を曲がるか曲がらないか一つで学区が変わるとは…。まあいい、問題は今はそこじゃない。
「うう、ストローのないフラペもってひとりでかえんのはずかしい…ああ、やっちゃったんだなあのこって見られるのすごく嫌…」
「べつにそんな気にして見ないだろ…」
「だとしても聞かれる前に説明すんのもめんどくさい。」
「ああ、お前そういつやつだったよな。」
なら余計に言わなきゃいいだろという最もなご指摘を甘んじて受けるも、こればっかりは性格ですからぁしゃーないですね。
ご近所さんに聞かれる前に自分で説明して自爆するタイプです僕は。説明したあとよく言われる言葉第一位は、そこまできにしてなかったのに。である。
「なら、俺んちくる?久しぶりに。」
「え、いく。」
「えっ」
「えっ」
食い気味に即答したら驚かれた。なんで!
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