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家族のカタチ

「ええええええええええ!?!?!?」 「は!?え!?俊くん!?」 「お、おまお、おま!ま、ちょえあ、は!?」 「俺は、本気です。」 まじで。 忍さんに至っては焦り方が凄くて言語機能がパーンってなったようだ。 当事者の僕は、一体何を言われたのか正しく理解出来ないまま、完全にフリーズしてしまっていた。 「元々そのつもりでした。俺はきいちが好きです。抱いたから責任取らせてくださいとかではなく、純粋にこいつを、俺のものにしたい。」 「…今回のは、きいちが自分の体調管理を怠った結果、俊くんが中てられた事故みたいなもんだ。的確に動いてくれたことを感謝してる。」 僕を置いてけぼりにして、オカンと二人で話し合う俊くんが急に大人に見えてしまう。元々番いにするつもりだった、と言われて動揺したが嬉しくないはずがない。でも、違うと言われても体を重ねたことによる責任を感じているようであれば、僕もそれは後味が悪い。 俊くんが真面目にそこを否定してくれたことで、少なからず安堵はしたが、オカンが許してないのは俊くんじゃなくて、僕だ。 「待ってください。俺の気持ちが、一過性のものだとでも言いたいんですか。」 「おい俊、やめろ。」 忍さんが、俊くんを嗜める。この状況を作り出してしまったのは、僕なのだ。 「俊くんがうちのきいちを気にってくれてんのは嬉しい。だけどな、アルファは切り捨てる側だ。オメガは一度捨てられたら目も当てられたもんじゃない。一生あいつはヒートに怯えて生きていくことになる。」 「若いからですか。俺がガキだから気持ちが変わるとでも?」 「そうだ。若くして番ったって幸せになれんのは一握りだ。きいちを捨てずにそのままいられんのか?学校も違うのに?それともさっさと孕まして家にでも閉じ込めとくつもりか。」 「俺が言えた口じゃないのはわかってます。だけど、俺は。」 「お前が背負うのは、あいつだけじゃねえってことだ。その意味、わかってんのか。」 その、オカンの言葉に目を見開いたのは僕の方だった。 「ねぇ、それなに。」 「あ?」 「オカン、それ誰のこと言ってんの。」 「…珍しい。きれてんの?」 うちのオカンは、育児も弟の世話も全部一人でやった。オトンが仕事で深夜に帰るのも遅くまで待って、そこまでしても駄目になったことがある。 勇おじさんの、心の尊厳だけは取り戻せなかった。 不自由な体への苛立ちは身近なオカンや僕に向かう。それをオトンが気づいて同居をやめるか離婚をするかの選択を迫った。 究極の二択だ。それくらいあの頃の僕らは疲れていた。オカンも限界だった。結局、同居をしていたものを解消し、今は別で住んでいる。 出ていけ。そう言われたのを、僕は目の前で聞いたのだ。 怒りのまま暴言を吐くおじさんと、糞ったれと泣きながら刃物を持ったオカンの修羅場。僕はおじさんの車椅子にしがみついて大泣きしたのだ。殺さないでと叫んだ。 オカンの刃物の先にいたのは大切にしたい家族だ。 アルファであるオトンは極めて事務的に手続きをした。こうなることをわかっていたかのように。最初から同居なんてしなければよかったなんて言って。 「僕は、オカンの子だけど…オカンじゃない。」 「きいち、」 「家族ってきれいなだけじゃないのは僕が一番知ってるよ!一番近くで見てきたよ!」 「おちつけ、」 「でも僕は、それでも逃げなかったよ!」 俊くんは僕がなんのことを言っているのか、分からない顔で見つめてくる。うちの家族は3人だけだと思っているからだ。 僕は今更言葉にされて思い出したのだ。背負う意味とは、僕たちにとっての家族とはなにかを。 「オカンも、諦めなかったじゃないか。逃げなかったよね、向き合ったよね。」  「俺は、」 「家族じゃん!喧嘩するよ!嫌気だってさすさ!でも、諦めきれないのは血の繋がりがあるからだろ!?」 「うるせえな!結局今だってどうにもなってねえだろうが!それを!お前が好きなやつに押し付けんのかっていってんだ!!」 「隠して苦しむよりはずっといい!!なんも、うしろめたいことなんてうちの家族にはない!!」 もう周りの目なんて気にしてられなかった。今この瞬間だけは、忍さんも俊くんも口を挟んでほしくなかったのだ。オカンはあの日からずっと悔やんでるのを知っていた。オトンが下した決断は家族を守るためだってのも良くわかる。おじさんも、自分のせいで縛るのが嫌だったのだ。だから分かりやすく突き放した。 今ならわかる。ただ泣いてしがみついてた子どもはもういないのだ。 「オカンおもう家族の形って何。」 「かたち、」 「当てはまんなきゃいけないの!?その形に!幸せの形ってなに!?言えねえだろうが!!わかってねえんだろ!?」 「ぐ、っ…」 「俺にだってわかんねえよ!!わかんねえから手探りなんだろうが!!おめえが一番わかってんだろうがそんなこと!!」 ここまでオカンに対して怒鳴ったことも、こんなに制御出来ない憤りをぶつけたことも初めてだった。 オカンもここ迄キレている僕は初めてだったのだろう、呆気にとられたような顔で呆然と見つめている。 俊くんも、忍さんも、まさかこんな状況になるなんて予想できなかっただろう。 僕は熱くなる頭を冷ますように包帯で巻かれたミイラみたいな手で顔を覆う。こうしないと、また泣いてしまいそうだったからだ。 全部吐き出した。言いたかったこと全部言った。身体中の淀みが全部無くなったようにさっぱりとした気持ちのはずなのに、あとから生まれるのはオカンに向けて怒鳴ってしまった後悔の気持ちだけだった。

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