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静かに変わる
「きいち聞いたぞ?変なもん拾い食いして寝込んだんだって?」
「え?なにそれやばくない。」
「ちがうのか?」
「…ちがくないけども」
違うんですけどもね!!!
3日ぶりに登校すると、クラスの皆からは僕がついに拾い食いまでするようになったらしい。という嘘を信じてる奴らが多く、別のベクトルでのご心配をおかけしたことになっていた。
「で、出どころは…」
「お前んちのトーチャンが学校に電話してきたぞ。」
学がムスッとした顔で付け足す。どうやらこの三日間の間ずっといらいらしていたらしい。そのまま隣の席を陣取ると、頬杖をつきながら無言で見つめてくる。い、居心地悪…
「益子が知っててなんで俺がしんねーの。」
「や、ほら…学は生徒会でいそがしいかなって?」
「まるで俺が暇みたいな扱い!別にいいけどね!?」
「俺だってお前の事心配したんだぞ!」
「ご、ごめんねぇ…」
益子は俺も暇じゃないんですけどね!?と喧しい。今回ばかりは申し訳なかったと思ってるよ!
学はまじでご機嫌斜めらしい。結局、末永が呼びに来るまで僕の髪の毛を満足行くまでいじくり倒していた。
休みの理由を教えなかった罰として、今日一日僕はツインテールでなくてはいけないらしい。別にいいけどリボンは外してもいいだろうか…
益子は似合ってるよきい子ちゃーんなどと抜かして写真を撮ってきたのでぶっ叩いといた。主にグーで。
「てか絶対姫ってお前のこと好きだよな。」
「好き?どこが?」
「いやらぶよ、恋愛的な意味でな?」
昼休みの屋上で、ホントは学も誘ったのだが予算云々とか生徒会絡みの仕事があるとかで来れなかった。
益子は2個目の焼きそばパンのパッケージを破りながら、そんなことをいった。
「うっそ。全然そんなことないと思うけど。」
「お前くっっっそ鈍感だからなぁ。まあ周りから見たら結構わかりやすいぜ?」
「んー、わかんないや。」
もぐ、とクリームパンを咀嚼しながら振り返る。僕のことを好きになるという要素が全く出てこないのだ。そりゃたしかに抱きついたりは友達ならするだろう。益子にもするし。
じゃあなんだ、膝に乗ってくることか?学が眠いとか言って乗ってくるのは気にならなくなりけど…と、むんむんと思い返してみる。
益子は、だめだこれ。みたいな失礼な顔して僕の飲み指しのカフェオレを奪った。
「あ、べつにいーけど。」
「ほれ、こーゆーことよ。」
「ん?」
まったくもって意味がわからん。益子は次に食べかけのクリームパンも、僕の手ごと口元に持っていったかと思うと、ぱくりとひとくち食べた。
「食べたいなら言えばいいだろー。もー、」
「んむ、…そういうとこだっつってんだろが。」
「あて、」
益子の口端についたクリームを親指で拭ってやったというのに、ぱこりと音を立てて頭を叩かれた。解せぬ。
「つまり、無意識にお前は距離感を縮めてるんだわ。」
「なにそれ。つまり馴れ馴れしいってこと?」
「悪く言えばな?だけど見た目も悪くないから余計に初恋キラーになってるわけだ。」
「褒めてんだか貶してんだからわかんないな…」
まったくもって不本意である。益子も学も、仲いい友達としての距離感で付き合っているつもりだったからだ。別にそれが嫌とか言われたわけではないけど、なんとなくそう言われてもピンとこなかったのだ。
「例えば、高杉ー!ちょっとこっちきて!」
益子は突然後ろで集まって食べてた高杉君を呼ぶ。え、俺話したことないんですけど!
呼ばれた高杉君は、ミスコンに出たサッカー部の綺麗枠だ。爽やかイケメンの彼は、以外にも益子と仲がいいらしい。彼はなにか一言グループにいったかと思うと、律儀にも駆け足で近づいてきてくれた。
「なに?」
「高杉ってきいちのことどう思う?」
「は!?」
「急だな…」
急すぎるよね!!
高杉くんはちらりと僕を見ると、そうだなぁ…と言葉を探してくれようとする。そんな話したことないやつの事をどう思うとか言われても困るだろうに、益子の無茶振りにも答える心の広さに僕は感心した。
「高杉くんなんかごめんね、俺のこと知ってる?」
「話したいとは思ってたよ。なんか面白いやつだなって。」
なんと、存在を認識されてました。高杉くんは居座ることに決めたのか、そのまま胡座をかく。僕はなんだか少しだけ緊張してしまったので、なんとなく背筋を伸ばしてみた。高杉くんは俊くんとはまた違う方向でのイケメン君だ。こんな子が益子の友人とは世の中何が起こるかわからない。
「片平はなんつーか、アホ可愛い?」
「ぶわはは!っ、いってぇ!!なんでなぐんだきいち!!」
「や、なんか可愛いとか言われないからつい。」
「あはは!そういう反応いいとおもうけどなぁ!」
まさかの高杉くんの発言に声を出して笑う益子をぶっ叩くと、そのやり取りが面白かったのか高杉くんも笑ってくれた。
「僕より学のがかわいいとおもうけどね!」
「や、吉崎は可愛い。けどセットだと余計可愛い。」
「益子どうしよう僕高杉くん苦手かもしれない!!」
「本人目の前にしてなにいってんだこいつ。すまんな高杉、こいつアホなんだ。」
「ふは、いいよいいよ。俺とも仲良くしてくれんなら。」
ひぇ、と声が出たのは許してほしい。何だこの、圧倒的アルファオーラは。爽やかな笑顔で自分の意見は曲げないまま、相手を立てるような言葉遣いに長けている。高杉くんは絶対自分が周りにどう見られているか分かっている気がする!!
「あっ、うん、僕で良ければ?」
ここは角を建てないのが一番である。学にも友人がまたひとり増えることを考えたら、人気者の高杉くんと親しくなるのは悪いことじゃないだろう。
「俺も名前で呼んでいい?」
「あ、いいけど…」
「ふふ、きいち。俺は連でいいよ。」
「高杉お前俺は名前呼び許さんくせに貴様!」
「益子かわいくねーもん。」
「わっ、」
横に座っていた高杉くんは徐に僕の肩を抱いて引き寄せる。この人結構馴れ馴れしいな!?と思ったとき、益子が話してた距離感のことを思い出した。
もしかして、パーソナルスペースが近い高杉くんで僕に自分のことをわからせようとしているのでは、と思い至った。
そうだとすればまじで距離感気をつけよう、僕みたいに馴れ馴れしくされて嫌がる人もいるかもしれん。
僕は苦笑いしながら高杉くんの背中を叩いて離してほしいと合図を送る。
「高杉ぃ、きいち好きなやついるからお前には靡かないと思うぞ?」
「まじ?そんなつもりないけどいいこと聞いちゃった。」
「あはは、まあここの高校にはいないけどね。」
「へぇ?」
他校の生徒かぁ、と意味深に微笑む高杉の様子に薄ら寒いものを感じる。僕の中で爽やかイケメンの高杉くんから、なかなかに読めない奴。という見解にかわった。
「なんでもいいけど、今日からよろしく。」
「う、うん。」
この時感じていた嫌な予感に素直にしたがっておけばよかったのかもしれない。
僕は俊くんに言われていた、何かあったら。という約束を、気軽なものに捉えてしまっていた。
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