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なんだかんだで
「おはよ。」
「昨日はお楽しみでしたね?」
「久しぶりにはしゃいでしまった。殺されるかもしれん。」
「生なましいな…ご飯作ったからはよ食え。」
翌朝、やっぱりいつもの時間になってもオカンは起きてこなかった。その代わり、やけに肌ツヤのいいオトンは朝からスッキリした顔で登場である。元気なアラフィフだよまったく。
オトンはテキパキと、トレーに僕の作ったトーストやサラダ、インスタントのコーンスープを乗せると再び階段を上がっていった。構わないけど、せめてお前はリビングで食えよと思った。
今日は一日オカンの奴隷になるのだろう。やっぱり家の夫婦仲はよくわからん。良かったり悪かったり、ほかの家でもこんな感じなのだろうか。と思いながらサクサクとトーストを食べた。バターんまーい。オカンが隠しているピーナツバターも食べちゃお。
「きいち。」
「んあ。なーに?」
オトンがひょこりとリビングのドアから顔を出す。オカンとちがって全然可愛くない。
「洗濯機どうやったら動くんだ。」
「…汚れモノは洗濯機に入れといてくれたら後で僕が回すよ。」
「む。すまんな。なら俺は今日部屋から出ないから、なんかあったら電話してくれ。」
「風呂沸かしとくから先に二人で入ってくれば!」
たしかに!という顔で頷くと、そのままオトンが再び二階へ消えた。暫くするとタオルに包まれたオカンが物凄く不機嫌な顔で抱き上げられたままオトンとおりてきた。あまりの両親のテンションの差が面白すぎる。
「おはよう…。」
「声やば!って、なになになに!?」
浴室で降ろされたオカンが、なぜかバタバタと走って僕のところに来たかと思うと、盾にされてオトンとの壁に使われる。
腕まくりして洗う気満々だったオトンは大層不服そうである。わかる。一緒に入りたかったんだろうなぁ、でもオカンがキレてるから沈められる未来しかないけども。
「吉信はいらねぇ。俺はきいちと風呂入る。」
「なに!?」
「嘘でしょ僕高校生なんですけど!?」
「そうだぞ晃!高校生は親となんて風呂には入らない。」
「お前、風呂でまたなんかすんだろ。しないならいいけどしたら千切る。」
何を!?とオトンと思わず震え上がってしまった。何をってナニでしょうねきっと。オカンは底冷えするような声である。がらがらだけど、昨日頑張り過ぎたんだな。
「オトン。ここは息子のためにも。」
「息子の…」
「お前ら仲いいな…」
目配せするのは勿論僕ではない。オトンの息子の為にもな。うん、まだ現役ならここで引退するのも不本意だろう。
お互いわかったかのように頷くと、仕方なく着替えを取りに部屋に行くことにした。
「オカンさき風呂入って待ってて。あとから行く」
「俺も…」
「狭いわ。吉信は庭の草でもむしってろ。」
「はい。」
一刀両断過ぎて面白い。
オカンがフラフラしながら浴室に向かうのを見送り、僕もタオルやら着替えをまとめて向かう。朝風呂とか久しぶりだ。オトンは律儀にも軍手をはめてたから、これから毟るのだろう。なにって、ミントをだよ。
「昨日なんかあったの?」
「知ってていってんのか?」
「ちがうちがう!オトン早く帰ってきたし、なんか紙袋もってたからさぁ。」
白い湯気がタイル張りの浴室を優しく包む。
オカンはすっかり体を洗い終えたのか、僕が、来た頃にはもう湯船に使っていた。
「あぁ、昨日は番になった日なんだよ。」
「へぇ!結婚記念日とはべつなんだ!」
「まぁ、一緒でいいって言ったんだけどよ。別で祝うべきだって喧しいからまかせてる。」
「ふぅん…」
オカンは気だるそうに濡れた髪をかきあげて耳にかけた。首筋や肩、そして胸元にかけてオトンが着けたであろう鬱血が散らばり、我が親ながらなかなか激しかったようである。
「オトンはいつまでも元気だねぇ。」
「体力馬鹿だよ。会社の中にトレーニングジムが入ったとかで体鍛え始めたしよ。」
「まじで。子供増えちゃう?」
「お前だけで十分だよ、マセガキ。」
大人二人、向かい合わせで入ってぎりぎりの浴槽でオカンと湯船に浸かる。オトンと入ることはめっきり少なくなったようで、すきあらば一緒に入ろうとしてくるのを阻止して無駄な体力を使うとボヤいている。いわく、掃除がめんどくさいらしい。
親の性事情もあけすけな我が家はオメガが二人もいるからかもしれん。オメガの事情は親から子へだ。
「僕が出来たときって、どうだったの?」
「あー、まあ。色々あったな。」
「嬉しかった?」
「そりゃな。吉信の慌てっぷりとかクソウケたし、きいちを初めて抱いたときは結構やばかったな。」
僕の出産はなかなかに大変だったらしい。男オメガの妊娠というだけでも大変なのに、なにせ僕はすくすくと育ちすぎたのだ。
オカンは当時を振り返るように、時折なにかの思い出し笑いをしながら語ってくれた。
話は僕を妊娠したときまで遡る。
当時のオカンは成人したての20歳。発情期を待ってその日のうちに番契約をしたらしい。
オメガとのヒート時の性交中に、項を噛むことで成される番契約は絶対だ。互いの信頼を得ない限り、幾ら項を噛もうとも痕は残らない。
互いの気持ちが擦り合わないときは発情期も来なければ、項を噛んでもオメガの苦痛にしかならない。アルファも番契約時に出る特別なフェロモンが妊娠を可能にさせることを知っているので、それが出ない限りは無理やり契ると強姦になるのだ。
そんな条件の中、何よりも雄弁に互いの好意を差し出し、受け入れられたことが身を持ってわかる瞬間。互いを唯一として認められた多幸感に包まれて行う番契約は、何よりも特別なものなのだ。
オメガの幸せはアルファの幸せ。なによりも、オメガの項に痕を残すのは固く結ばれた愛と信頼の証なのだ。
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