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晃と吉信、そして僕。

設楽晃は、特別な日を迎えた。片平吉信と番契約を無事済ませ、互いが唯一の証として晃の項には吉信の痕が刻まれた。 晃はその痕を吉信が与えた際、ホロリと涙を零した。項から全身に渡って、晃の大好きな吉信の上品な薔薇のような香りが甘い痺れと共に全身を包み、そしてまた吉信も晃から放たれた甘い果実のようなフェロモンが優しく吉信の奥底を刺激した。 これは、抗えない衝動だったのだ。 二人は何度も愛を交し、互いが互いに溺れるように貪りあった。年の差はあれど、その隙間を埋める確かな信頼が二人の間にはあったのだ。 吉信は晃の涙を唇で受け止めた。腕の中の愛しい存在が歓喜に震えて涙を零す。溢れるそれは耐えた年月が気持ちとなって現れる。 「俺はお前のものになる。だから、お前も俺のものになれ。」 「いいよ、俺はお前のものだ。ずっと待ってた。欲しかったんだ、その言葉を。」 「待たせた、本当に。ようやくだ。」 「俺も、大人になるのが遅くてごめん。」 吉信と晃は、互いの存在を確かめるために何度となく愛を交わした。 そして、番契約から一月後。二人の間に家族が増えた。 その日、晃の腹に小さな違和感を感じた。まるで筋肉痛のような、内側から張っている感覚だ。 吉信との激しい行為の後、稀に起こるものと似ていた為特に気にはしなかったのだが、何度かトイレに立つうちに裂けた痛みも無いのに僅かに出血をしたのだ。 「なんだこれ、」 晃は僅かな不安を覚えた。悪い病気ではないのかと。 しかし目立つような不安要素は僅かな出血くらいだ。それも、すぐに止まった。きっと知らぬうちに内側から滲んだのだろうと気楽に考え、一応大事を取って一週間ほど行為を行わないように吉信と相談した。 そして決定的に体がおかしいと気がついたのは、番である吉信だった。 「晃?どうした、お前顔色が…」 「…なんか、ちょっと…」 頭がいたいのか、こめかみを抑えながらふらふらと起きてきた晃の顔色は真っ青だった。 吉信がそんな番の様子を不審に思い、体温を確かめようと近づいた時、普段よりも番の匂いが濃いことに気づいた。発情期が近いのだろうか、しかしそんな気配はない。 「だるい?熱でも出たか…」 「手、きもち…」 「いいこだ。体を温めたほうがいい。」 「ん、…ごめんな…」 吉信は軽々と晃の体を抱き上げると、温めるために寝室に向かった。 晃はだるそうに肩に頭をもたれさせ顔色も悪い。寒そうな様子がかわいそうで、ベッドに横たえると自分も隣に入り包み込むように抱きしめた。 「体調が悪いなら、今日はこうしていよう。」 「ごめ、…うん…」 「気にするな。明日一緒に病院いこうか。」 「病院やだ…こわい。」 「俺がついてる。大丈夫だから。な?」 どうやら本気で体調の悪さに参っているらしい、気の強い晃がこんなに参っている事は珍しく、愚図るように吉信の腕の中に潜り込んで甘える。 具合の悪い様子が可哀想で心配なのに、行動が可愛くて忍耐を試される。寝かしつけようと背中を撫でてやると、もぞもぞと晃が顔を上げた。 「寝ないの?具合悪いなら寝たほうがいい。」 「…ちゅうしてくれ、一回だけでいい。」 吉信が忍耐を試される中、まるで煽るかのようなことを無意識に行う番になんとも言えない気持ちになる。 一週間抱いていない。勿論体調の悪い晃を襲うような真似はしたくない。吉信は耐えるように一度強く目をつむり気持ちを切り替えると、その細い顎に優しく手を添えてそっと唇を重ねた。 「っん…そうじゃ、なくてさ」 「ん…、仕方ないな。」 子供だましのキスではお気に召さなかったらしい。晃は濡れた瞳で催促するように薄く唇を開いた。 吉信は誘われるように瑞々しい晃の舌に自身の舌を絡ませると、唾液を交換するようにくちくちと咥内を甘やかす。 「ふ、ぁ…」 「晃…、」 熱い吐息が唇の隙間から漏れる。れる、と舌の裏側を舐めあげてやると、小さく身を震わせて喜んだ。可愛い番はこくこくと喉を鳴らして吉信の唾液で喉を潤す。 晃の股の間に挟まれた吉信の長い足に、熱い熱源が押し付けられる。無意識にゆるゆると腰を揺らめかせる晃の痴態にあおられる様にパジャマの裾からそっと手を差し入れ胸のとがりに指先が触れたときだった。 「ひ、ぁ…ゃ、なに…」 「…ん?なんか…」 「ぁ、あっ…へん…」 「なんか、育ってる?」 ふにり、と柔らかい突起の感触がわずかに違う気がした。 ぷちぷちとボタンを外す吉信の様子を、晃も不思議そうに見つめる。最近胸がうずくこともあったのだ。育ってるの意味はわからないが、晃も何となしに視線を胸元に持って切った。 「なんか、色が濃くなった気がする。」 「や、ぁう…っ」 薄桃色の突起の色味が僅かに赤らみ、乳輪も少しだけ膨らんでいるような状態だった。 まるで、吸いやすくなったような形だ。晃も体の変化に気づいたのか、自らの胸の変化に顔を一気に赤らめる。 「…晃、お前もしかして。」 「え…、なに…」 胸元を晒し、赤く色づいた尖りは主張してピンと起立している。据え膳のような状況ながら、吉信はなにか思案する様に大きな手のひらを胸元からゆっくりと下腹までへと滑らせた。 晃の薄い腹は、微かに張っているようだった。 「妊娠したんじゃないのか?」 「え…、にん、しん?」 わずかに熱に浮かされた脳内で、妊娠の二文字がやけに鮮明に焼きついた。吉信は体を冷やさやないように手早くボタンをしめると、再び羽根布団にくるまりながら晃を抱き込むと、くん、と首筋の匂いを確かめた。 「フェロモンが僅かに出てるな。それに、前と少し匂いが違う。」 「ん…最近ちょっと血が出た。」 「着床出血かもしれない。寝て起きたら、検査薬を買いに行こうか。」 「出来てたら、嬉しいか?」 晃は吉信に包まれながら、恐る恐る顔を見上げる。十歳違う、大人の男の吉信が僅かに高ぶっている様子が気になったのだ。 「当たり前だろう。嬉しいに決まってる。」 「…俺もだ。妊娠してたら、いいなあ。」 吉信の真っ直ぐな言葉が、わずかに緊張していた晃の心をほぐす。晃の手は、無意識に下腹部を撫でていた。 ここに、いるのかもしれない。吉信の子供が。 晃の顔は、穏やかに安らぎに満ちた表情に変わっていた。 晃の細い手を包むかのように、吉信の手が重なる。 互いの体温がひどく愛おしい。その温度が優しく移るように、晃の下腹部もじんわりと暖かさが広がっていた。

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