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マーキング *

なんだか全身が気だるい。腰の辺りが甘く響き、下腹部がじくりとうずく。素肌に触れるシーツが心地よく、なんだか倦怠感こそあるものの、とろける様な感覚に身を包まれて微睡からその意識を浮上させた。 「ふわ、ぁ…?」 ゆらゆらとゆれてる気がする、自分の膝の下を大きな手で支えられながら、俊くんが優しく微笑んで見下ろしてくる。 なんだろう、今、一体何時…ゆるゆると瞬きをして時刻を確かめようと鈍い思考の中枕下にあるはずの時計を探そうと体制を変えた時だった。 「っぁ、あぇ…?っン、ふ、っ…」 腹の中側を優しくこすられる熱いなにかに骨抜きにされるかの様に、全身の力が抜けた。眼の前がきらきらとはじけ、腹の奥では大きなものがやさしく奥の入り口をこつこつとノックをする。それに答えるかのようにへその内側はけなげに震え、抗い難い快感が寝起きのきいちを襲う。 「ふぁ、なん…!」 「おはよ、…よくねれたか?」 「ん、あぇ…っ…なん、っ…やぇ、へ…んぁ、っ!」 朝の早い時間から、腹の奥にあるいいところを何度も往復する。 俊くんが気持ちよさそうな顔で、眉間にシワを寄せているその表情が色っぽく、もっとみたくて言葉とは裏腹に性器を甘く締め付ける。 昨日はどうしたのか、酒が入ったのでまったく何が起きたか覚えていない。ただ抱かれた感覚はあるので、昨日はセックスをしたにちがいない。 確かクリスマスパーティーをした記憶が有る。忽那さんと益子は、どうしたのだろうか。 朝からこんな、なんて爛れたことを。ふわふわとうわつく熱に溶かされた思考に俊くんが気がついたのか、そっと顔を寄せて可愛い音を立てながら唇を啄む。 ちゅ、ちゅ、と何度も濡れたリップ音で宥められれば、それに応えるきいちも目の前の快感を素直に追うように上手に腹の中を締め付ける。絡めた指を枕に押し付けながら、細い首筋にその犬歯を食い込ませてマウントをとる俊くんが愛しく、なすがままにゆさぶられた。 気持ちいい、奥が好き、何度も出入りするようなその刺激に何度も甘く悲鳴をあげては、奥深くに強く押し付けられるその張り詰めた先端によってぐずぐずと泣く。過ぎた快感は辛い、悲しくも無いのに涙が出てしまう。気持ちいいとこんなに泣くこともあるのかと他人事のように思いながら、体の内側から漣のようなしびれが全身を覆った。 「ふぁ、ぁ…っ!?…ひ、っ…」 射精したかの強い快感が何度となくきいちを襲う。不意に俊くんの強いフェロモンの香りが、きいちの思考にベールをかけるかのようにふわりと広がった気がした。 そこはだめだ、多分いけないところに触れている。結腸の奥、まるで何かが受け入れるように降りてきた気がした。 「ひ、ぁっや、だめ、ぇ…っ、そこ、ぉっ…ごつごつしないれぇ…っ!いや、ぁ、ぁ、あっあっあぅ、っ」 「く、っ…んだ、これ…っ…」 「うぁ、あっ、は、はいっちゃ、はいっちゃう、からぁ…っ!」 きつく俊くんに抱きしめられながら、がむしゃら に揺さぶられる。ひくんと腹が波打った瞬間、奥がガパリと開いた気がした。 「う゛、ァ…っ…!!」 つるんと勢い良く、本当の奥まで俊くんのが全部入ってしまった。尻の縁にはこれでもかというほど腰を押し付けられ、涙で歪む視界には獣のように瞳孔を開いた雄の顔をした番が見下ろしていた。荒く呼吸を繰り返しながら、内部を確かめるようにコツコツとその入り口をノックされると、ぷしりと連動するかのように潮が吹き出す。 もう、どうなってもいい。きいちは身を投げだしたまま体を赤く染め上げ、呼吸を整えるように何度も胸を上下させた。 そうでもしないと、本能に飲み込まれた俊くんを受けとめる余裕ができなさそうだったからだ。 「ぎ、っ…ぃあ!えっ、ま、まだぁ、っうご、かな、ぁっ、ひぅうっ!」 「ぐ、っ…」 ずるりと腰を引いたと同時に生なましい感覚で中が擦られる。強い痺れは鋭敏に中を刺激し、せっかく呼吸を整えたのに、その一度の往復だけで簡単に息は乱された。 「ぁあ!あっ、あ!や、やぇ、ひぅうっ、ば、かっ、ばか、ぁっ、あっ!」 「ふー‥っ、き、いち…!」 「ひぃ、ぁあ、あっあああっ!」 そのまま深く突き刺され、弾けるような快感とともに自身の体を精液で汚したきいちは、奥深くまで塗り込む様な腰のゆらめきとともに吐き出された精液にびくびくと身を震わし、起き抜けにしては激し過ぎる行為に再び意識を手放した。 「きいち…、…」 俊くんはただ瞳孔を開いた雄の顔で息を乱しながら、愛しそうにくたりと身を投げ出す番の首周りに歯型を残しながら、満足行くまで腰を揺らめかせていた。 益子は隣の部屋から聞こえてきたきいちの泣き声混じりの媚声に、朝から激しく抱かれる同級生の身を案じた。 腕の中で小さくなって耳を塞ぐ葵は、顔を真っ赤に染め上げて涙目である。おそらく自分とは違い、幼馴染から番になったきいちが、酔っていたとはいえ自分から葵に口付けをしたことに対し、無意識のうちに嫉妬を覚えたのだろう。いくらオメガ同士とはいえ、確かに自分の番が進んで他の人に口付けをしたとしたら、たとえそれがオメガ同士でも腹持ちならないかもしれない。 されたのならいい、だが、したのならだめだ。だってそれは、自分の意志での行動だからだ。真実は事故のような口付けだったのだが、アルファにとっては番の行動は常に意識の中心であり、目に入ったものが真実だ。 益子も俊くんも、口では子猫同士が戯れたさきの事故として笑って許してはいるものの、腹の奥に燻ぶった熱はマウントを取ることで再び番に自分の匂いをマーキングする。そんな醜い本能のままの執着をその身を持ってわからせる。 オメガはマウントを取られることで、求められているという安心感を得るというが、流石に朝からこんな悲鳴を聞いてしまえばやり過ぎだと思う。 しばらくして聞こえなくなったきいちの声。葵は泣きそうになりながら腕の中から顔を出して、益子の唇をぺろりと舐めた。 おそらく葵もきいちがなんでそんな目にあったかを正しく理解したようで、いわゆる可愛らしいご機嫌取りの一つで本能的に行動したに過ぎない。 益子は、口付けに答えながらも帰ったらおそらく抑えられないであろう自分に、俺も大概人のこと言えねえよなと思った。 ガラリ、と扉が開く。上半身裸にグレーのスウェットのみを身にまとった俊くんが、その割れた腹筋としなやかに鍛えられたその筋肉を見せながら部屋から出てきた。 「朝から元気だのー、お前らは。」 「…、益子か。」 「うっわめちゃくちゃ瞳孔開いてんじゃん。そんな煽られたんなら抑制剤うっとけば」 「もうおそい、」 「おいおい…」 俊くんを見ないようにしがみついて胸元に顔を埋める葵を宥めすかしながら、益子は俊くんを呆れたように見る。 ヒート後にアルファが本能に負けて無理やり最中にフェロモンで子宮を開かせるのは、番のセックスとしてはよくある行為だ。 しかし、いくらヒートではないからと言って中に出して妊娠しないとは限らない。今朝のセックスで避妊をしたかどうか聞くのもなんとなく嫌で、益子は腰を庇うような朝のきいちには、これからやさしくしてやろうと決めた。 キッチンのカウンターに体を預けながら取り出したペットボトルの水を煽る。酷く満たされた顔をして口端についた水を拭いとると、俊くんは再び部屋に戻っていった。 あのあと益子も葵を連れて帰ることにしたのだが、益子が送った安否確認のSNSは、結局最後まできいちからの既読はつくことがなかった。

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