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起き抜けにまじで辞めてくれ
「おじいちゃんですよぉ。」
「俺も、おじいちゃんですよぉ。」
「ひ、」
日曜日の昼間っから俊くんちのベッドの上ですよすよと爆睡ぶっこいてたら、目が冷めたら吉信と正親さんが僕のお腹を撫でてたでござる。
さわさわとお腹を撫でる感触に、最初は俊くんかとおもっていた。だけど電話で誰かと話している俊くんの声が遠くて、なんだコレ、誰だ?と思って目を開いた。
「ひぎゃ、ああー!!!!!!!!」
想像してみて。寝起きに自分と相手の父親の二人が仲良く肩を並べて腹を撫でる光景を。
カオスである。僕の悲鳴も必然だと思ってもらいたい。寝起き一発目からの絶叫で、バタバタとリビングから俊くんの慌ただしい足音がしたかと思うと、寝室のドアをスパァンと開いて勢いよく飛び込んできた。
「中島確保ォオオオ!!!」
「社長ぉおお!!!また逃げ出したんですかぁああ!!!」
まるで熊が飛びかかるような勢いで中島さんが正親さんに襲いかかる。まるで相手の胴回りに飛び込んでいくかのような素早い動きで姿勢をかがめると、正親さんはそれを見てゆっくりと流れに身を任せながら、見事に突っ込んできた中島さんを巴投げをしてベッド横の壁にすっ飛ばしていた。
「ぐぉっ!!」
「ヒィッ!!!」
ドタン!!と大きな音を立てて僕の真横に落ちてきた中島さんを、吉信が大丈夫かい君、とかいって起き上がらせる。僕は寝起きで突然始まった大捕物?を目の前で見せられてパニックになっていた。
「おっと。こらこら、危ないから場所を弁えて燥ぎなさい。」
「親父が逃げなきゃ、こんなことになってねぇ!!んだよっ!!」
「うーん、だって普通に嫌じゃない?俺だって仕事は選ぶよ。」
「だからって息子に迷惑、かけんな、っつの!!!」
中島さんが目を回しているのを見て、あわあわとベッドから降りる。俊くんはというと、物凄いアクティブな親子喧嘩?のようなものをしている。狭い部屋でものすごく素早く組手をしているが、よほど正親さんを捕まえたいのだろう。胸ぐらを何度も掴もうとするたびに、正親さんは困った顔をしながらしなやかな腕の動きで交わしていく。
「えぇ、と…なにがなんだっつの…」
「俺は関係ないぞ。元々正親と呑む予定だった。」
「あぁ、そう…」
がちっと俊くんが遂に正親さんの腕を捉える。そのまま腰を低くして投げ飛ばそうとしたタイミングで、正親さんの長い足が綺麗に撓るようにして俊くんの頭をとらえる。わっ、と声を上げそうになった瞬間、手を離した俊君が腕でガードをするが、バランスがとれないままべしゃりところんだ。
「いってぇ!!!!」
「俊!!!」
「おっと、やりすぎた。」
腹をかばいながらベッドから立ち上がると、頭を抑えながら起き上がる俊君のもとに駆け寄った。息切れはしているものの、怪我などはしてなさそうでほっとした。
「もう、わけわかんないよ!!なんだってこんなかんじになってんの!?」
「いっつつ…すまん、起こした。」
「起きないほうがおかしいでしょ!?」
「うーん、ごめんねぇ騒がしくして。」
ぽりぽりと頬をかく正親さんがすまなさそうに肩をすくめる。吉信は起き上がった中島さんの肩を叩くと、ナイスファイトと言っていた。
「社長、いい加減駄々ばかりこねられては困ります!!仕事なんですから、わりきって頂かないと!!」
「だからってメディアはなぁ…」
心底嫌そうな顔で呟く。メディアって、あのメディアだろうか。キョトンとした顔で正親さんを見上げていると、ムスッとした顔で俊くんが口を開く。
「ドラマ撮影でうちの会社が使われるらしくてな。演技指導も含めてお願いできないかってことで了承したら、先方がご指名なのは親父だったらしい。」
「えぇ、それすごくない?うけたらいいのに。」
なんだか規模の大きな話だ。正親さんの会社がどれだけでかいかわかる話に、宣伝にはなっても悪い話ではなさそうなのにと思う。
「なんだかとっても面倒くさそうだから嫌だよ。」
「指名が自分だってわかった途端、あれだ。」
げんなりとした顔の俊くんが、完全に参っている。そういえば忍さんがいない時の正親さんの駄々は心こそ面倒くさいとかぼやいてたっけ。
なんだかイヤイヤ期のちっさい子供の対処法を学ぶのには良さそうである。
「んー、そっかぁ。面倒くさいならしかたない。」
「でしょう、何も俺なんかじゃなくたっていいんだよ。その程度の仕事をこなせないような奴らに給料払ってるつもりはないしねぇ。」
「なるほどなぁ。でもおじいちゃんのかっこいいところ、みたいよねぇ?」
よしよしとお腹を撫でながらまだ見ぬベビーを甘やかすように言う。だって、孫が生まれたときに言いたいじゃないか。このドラマの監修、正親おじいちゃんがやったんだよぉって。
「赤ちゃん、男の子だったんですよ。正親おじいちゃんのちょっと良いとこみてみたいよねぇ。」
「ホストのコールみたいに言う…」
中島さんがそんなこと言ったって無駄ですよと言わんばかりに肩をすくめる。そっか駄目か。なんだか少しだけ残念である。
だけども中島さんの予想に反して、正親さんは急にやる気を見せた。
「受けましょう。」
「はぁ!?」
中島さんの素っ頓狂な声と、俊くんの怪訝そうな顔が一斉に正親さんに向く。吉信はなんだか面白そうに正親さんを見上げると、笑いながら誂う。
「チョロいな正親。」
「他でもない孫のためなら受けましょう。」
「…中島、親父の気が変わらないうちに先方に電話…。」
「ええ!!秘書の仕事では!?」
「今忍んとこいってっからだめだ。」
「もおお過保護なんだから!!」
なんだか中島さんもせっかくのお休みなのにこき使われてかわいそうである。ばたばたと駆け足で走り去っていった様子から見るに、苦労性が板についているということは、きっと仕事でもこんなかんじなんだろう。
「きいちくん。」
「あっ、はい。」
「元気な赤ちゃんを産むんだよ。産まれたらベビーベッドはフランス製の最高級のものを手配しよう。」
「あっ、普通のでいいですぅ…」
すぱんと俊くんに頭をぶっ叩かれながらも、めちゃくちゃ顔の良い渋い叔父様に手を握りしめながら微笑まれてちょっとだけキュンとなってしまったのは仕方ない。
だって顔の作りがまんま年齢重ねた俊くんなんだぞ。忍さんはクソオジ扱いしてるが。
「きいちきいち、俺はバギー買ってやるからな。名前決めたら教えなさい。名入れしよう。」
「名入れのバギーとは!?普通のでいいからねまじで!!」
おじいちゃん達大暴走だな!?なんだか寝起きにいろんなことがありすぎて一気に疲れた…。ため息一つ吐きながら、ベッドに腰掛けると、ピロロッと着信音が鳴って、それに反応した俊くんがスマホを取り出して通話に出た。
「ああ、そう。俺んち。うん、なるべく早く頼むわ…じゃあな。」
「だれ?」
「忍。親父来てるぞって言ったらすぐ行くって。」
おお、忍さん!この間きんぴらゴボウ貰ったのでおいしかったことを伝えねば。借りっぱなしのお皿を取りに行こうと腰を上げると、ピンポンと玄関の方からインターホンが鳴った。え、早くない?まさかね?
俊くんが即座に動いて玄関に向かう。なぜか正親さんは真っ青な顔をして逃げ道を探すようにあたりを見回した。
「あーあ、またなんかやらかしたのかお前。俺も一緒に謝ってあげるから腹をくくりなさい。」
「いや、結構。忍の怒りが収まるまで身を隠したほうが経済的…」
なにが経済的なのかと首を傾げると、何故か正親さんが僕の隣に腰掛けてきた。いわく、ここが安全地帯だとかなんとか。え、なぜ?
「きいちくん、さきにごめんねっていっておくね。」
「え?」
その瞬間、横開きのはずの寝室のドアが蹴破られるかのような勢いで大きな音をたてて前に倒れた。
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