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末永と!
「いやぁあーー!!!」
全速力で走って逃げたと思ったのに。まるで戦車のような威圧感と恐ろしいくらいのバイタリティーを秘めた瞳に捉えられ、気づけばいかついオカマによって学は可愛いくメイクを施された。
先程の悲鳴は、事件の根源であるカズ隊長とか呼ばれたオカマのもので、何でも安っぽいメイド服が許せなかったらしい。
「し、しんじらんないわ!!あんたみたいな逸材が、こんなチープな宴会衣装に身を包んでいるでなんてし、しんじらんないつ!!」
「俺はお前の格好のほうがしんじらんねえよ…」
「なんかいったかしら?」
「アッイエナニモ…」
学はというと、メイクが終わったからと縛り付けられていたパイプ椅子からやっと開放されていた。暴れたせいでシワになったスカートの裾を適当に直し、恐る恐る備え付けの鏡を覗き込む。
無理やりつけられた金髪のつけ毛もあいまって、見事に女の子である。いかんせん歩き方は普通に男なので、別途隊長の指導は入る予定だが。
「うける。俺かわいー‥」
「あんた達全員素材がいいもの。きいちくんが蓮なら葵ちゃんら百合、あんたは薔薇ってかんじ。」
「あんだよ、刺々しいって?」
「可愛い顔に騙されちゃう男からしてみたら、あながち間違いじゃなくてよ。」
パチンとポーチを鞄にしまうと、さも当たり前かのように和葉は控え室のパイプ椅子に腰掛けた。
どうやら居座る気満々らしい。ミスコンの後に商品説明もかねてあんたたち使うわねと不穏なことを抜かしていたので、恐らく葵も壇上に連れてこられるのは決定のようだった。
「ほら、もうおいきなさい。整ったあんたにはもう用はないわ。」
「ったくなんなんだよもー、まじでこええわ。」
和葉はパソコンを開くと、そのままカタカタと仕事を始めてしまった。ミスコン開始時刻までに紹介予定の商品をサイトにアップするらしい。ミスコンをみた、で割引になるようにするらしく、もはや商魂逞しくて抜け目もない。常に先回りするのがモットーらしく、ギフト用のセットまで作る予定だという。
学はしばらく自分の変わりようをまじまじと見つめていたが、やがてせっかくなら末永にもみせるかと思い至ったらしく、仕事中の和葉にサンキュー!と言ってから部屋をあとにした。
「…むりやりやったとはいえ、まさかサンキューと言われるとは思わなかったわ。」
あの子って意外と素直で可愛いじゃない。ポロリと溢した後、少しだけご機嫌になるのだった。
ところかわって、末永である。
手にした進行表通りに段取りも終わった。ミスコンまでの一時間、末永は高校最後の文化祭を学と二人で回りたかった。
しかし先程から連絡が途絶えたのだ。なにか忙しくしているのだろうか、それともきいちがくるとしってそっちに行っているのか。
末永は番になっても、自分の優先順位がきいちより下なのではと思うところがあり、そこがなんとなく悔しい。まあ嫉妬なのだが、きいちじしんも良いやつなのであからさまに態度に出すことはしなかった。
ただ、なんというかすこしだけ
「末永みっけ!」
寂しい。そうおもったときだった。
背中に小柄な体がどんと飛びついてきて、末永はニヤつく口元を誤魔化してから、くるりと振り替えった。
「まな、…」
「ミスコン、これででようとおもうんだけど…どーよ。」
目の前の金髪美少女から学の声がする。末永は瞬きせずにまじまじと学だろう美少女を見ると、その視線がいやだったのか頬を染めながら目をそらした。
「かっっっっ、」
「あ?」
「んんっ、うん。よく似合っている。」
危なかった。可愛いと言おうものならあしげにされていたにちがいない。ココ最近で学の扱い方はよく知っていた。可愛いは公共の場ではNGワードだ。慌てて言い換えた末永に、学は長いまつ毛を瞬かせて、少しだけ照れながらはにかんだ。
「かわいい!!!!」
「か、かわいくねえ!!!!」
「いたい!!」
ずびしとものすごい勢いのパンチが脇に入る。いかん。学をみてつい叫んだのが照れたらしい。照れた顔から恥ずかしいからやめろといった顔色に変化している。
「キスしたい。していいか学」
「だめにきまってんだろ!」
「だって誰もいないぞ。」
「だからってどこだと思ってんだお前!」
体育館の舞台幕の内側ですが、なにか。
後一時間後には開幕するということもあり、舞台セッティングが済んだ今、その他の生徒は体育館の席に座り時間を潰す者や、クラスに戻るもの。出店を回るもので席を外しており、学と末永は舞台幕の内側、まあ舞台袖の方なのだが、そこで二人きりだった。
人気がいないため、学も末永に抱きついたのだけれど、まさかここまで末永が食いついてくるとは思わず、腰を引き寄せられて体が密着すると、いよいよ末永の本気度が伺えた。
「ちょ、まってってば…キスしたら口紅がよれるたろ…」
「構わない。」
「俺が構うんだわ!!」
学のちいさな手が末永の口元を抑える。そりゃあ、最後の文化祭だ。学だって思い出つくりはしたい。なんならこの格好で致したっていいわけだ。やけにぎらつく末永に、こんな顔をさせてるのは俺という優越感だってある。
手の平の裏側を、べろりと舐め上げられた。まじかよこいつ。じわりと耳が赤くなったのがバレたようで、末永は学を包み込むようにしてぎゅう、と抱きしめた。
「とても似合ってる、ああ…誰にも見せたくないな」
「食券もらうためだからな」
「なあ、終わったらまた、着てくれるか?」
「ん、またあの時みたいに…シてえの?」
小さい手が末永の頬を撫でる。頬を染めながら見上げた瞳の奥は、仄かに欲を孕んだ色をしていた。
学の細い足の間を、末永の長い脚が詰めるようにして差し込まれる。思わずよろめいて壁際まで追い詰められると、口端に甘く吸い付かれた。
「んんっ、」
「舌だけでいい、だめか?」
「…しかたねーな。」
かすかに反応する素直な末永に、学の体がじくんと熱をともした。いわれるがままに薄くみずみずしい舌を差し出すと、末永の口がしゃぶるようにそれを口に含む。ちゅ、と吸い付いて学の唾液を飲み込むと、あぐ、と肩口に歯型を残してべろりと舐め上げた。
「ぁ、っ、…も、ばかやろ…」
「はあ、くそかわいい。犯してやりたい。」
「っん、だめ…帰ったらな。」
「む…仕方ない。」
よほど高ぶったのか、セックスをする時のように荒い言葉を呟く。窘めた学の言うことを渋々聞くと、そっと体を離した。
「ああ、勃起した。どうしよう。」
「ブッ、あははは!!!」
心底弱った。といった顔でテントを貼った下肢を見つめる末永がなんだかものすごく間抜けでおもしろい。
欲なんて知りませんといった精悍な顔立ちのイケメンが、真顔で勃起したそこを目の前に途方に暮れているシチュエーションも、ある意味忘れられない文化祭の爪痕になったのだった。
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