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これが醍醐味
各自か思い思いに文化祭を満喫し、そしてついにその時はやってきた。
文化祭には欠かせないイベントだ。勿論カッコいい生徒が選抜されて登場するミスコン、毎年阿鼻叫喚の女装ミスコン。この2つのコンテストは、優勝したクラスには食券が与えられるということもあり、食べざかりの学生達はこぞって顔のいいクラスメイトたちを段上に押し上げた。
「ついにやってまいりました!、皆さんお待ちかねのミスターコンテスト&女装コンテスト!!お前ら脛毛は剃ってきたか!?かわい子ちゃんからゲテモノちゃんまで各種揃い踏み、皆さんの清き一票が俺らの昼飯に変わります!!ほらいくぜーーー!!!まずは一発目ー!!!」
大いに賑わう体育館の熱気を、例年に引き続き喋りのうまい益子が引き上げる。
会場のボルテージは、笑いとともに最高潮に引き上げられていた。
「まるで手練の司会者みたいで笑う…」
「悠也って前もこんな感じだったの?」
「というか、毎日こんな感じだよ。」
コンテストはイケメン生徒と共に女装の生徒がカップルとして出てくるらしく、ハナとして登場した一年生エントリーの二組が登場すると、益子が歩みに合わせて流暢に紹介をしていく。二人はは流行りのアニメのコスプレに身を包んでおり、なんともほんわかとした可愛らしいカップルに拍手が湧く。
「まずはピッカピカの一年生でーす顔覚えて帰ってあげてねん。男の子は、うん!ふたりとも男子だったわ!二人は息ぴったりだけどお付き合いしてるのかな?え?双子?なんだそれ一部のオタクが喜びそうな需要じゃね!?」
ワハハと楽しげな笑いが起こるなか、遠くの方で増田含む一部の女子が悲鳴を上げていた。
「おっと、さっそく湧いたね。初々しいー!俺も一年のときは可愛かったのよ、ねー葵ちゃーんみてるう!!!?!?」
ぶんぶんと手を振りながら観客席にいる葵に向けてアピールすると、顔を真っ赤にしながらやめろと必死でアピールをする。まさかのこの距離で話題を振ってくるだなんて思っていなかったようで、そのやり取りに視線が集まる。
「とまあ冗談はこのくらいで、お次二組目は2年だね!おい一年エントリー少なくない!?もっと文化祭楽しもうぜぇ!?参加してくれてありがとね!おらお前ら拍手ー!!!」
てれてれと双子の一年がステージ脇にはけていくと、入れ替わりで2年のカップルが登場した。なんか見覚えあるなぁと思っていたら、もしかしなくてもあれは青木くんか?となりのホスト風の男は絡んできた子か。
「えっ、なに青木じゃん!うっけるセーラー服似合ってんね!?」
「まま、益子先輩、俺なんでここにいるんですか!?!?」
「おっとテンパりすぎて二年生女装枠の青木くんがわけのわからんことを言い出したぞー!!お前は生贄にされたんだよぉフハハハ!!!!」
「おい誰だこの魔王みたいな人を司会者にしたの!!!」
だはははと益子の話術と青木くんのやり取りに笑いがおこる。おさげのつけ毛をつけてネタ枠でのエントリーだったはずが、割ときれいに収まってしまったようで、むしろ隣に立ってる生徒…田辺だったか。のほうが普段着なはずなのにコミカルだ。
「じゃあさっきの子みたいに可愛く自己アピールできるかな?ほい青木、マイクもて!」
「ええ、あ、お、か、カレーが好きです!!!セロリが嫌いです!!2Cでお化け屋敷やってるんで来てください!!」
「いや自己紹介小学生かよ。ほら田辺!」
「田辺敦、フリーです。好みのタイプは綺麗系。俺の隣は君のものだ、よろしく。」
青木とは打って変わっての自己アピールは、ある意味爪痕として残る。益子はそういうのを待っていたらしく、それはもう大喜びで沸かせる材料にしてい
た。
「お前ら田辺くんフリーだぞ!!!!ぶはは!!芸人枠いいねえ!?そういうの待ってた待ってた!ちなみに今日のファッションテーマは!?」
芸人枠じゃないだろ多分。きいちは田辺と話したことがあるので知ってはいたが、とんでもないナルシストであるという印象だ。みんなネタだと思って沸いているから、彼のテンションも上がっちゃったらしい。
俊くんがたまに髪を手櫛で後ろに撫で付けるのを真似たのか、ワックスでぎとぎとの髪を大袈裟にかき揚げるとべろりと上唇を舐めた。俊くんはそんなことしないが。
「3年の桑原先輩と被らないように、ちょっとワイルドにしてみたくらい、かな…ああ、俺は2年ですけど似たところがあるので、ね?」
「おいばかやめろ田辺恥ずかしいから口を開くな!!」
わたわたと青木くんが真っ青になりながら田辺をたしなめる。葵もきいちも益子もきょとんとしたし、葵に至っては似てはないよね…?と目を凝らしながら噛みしめるようにして言うもんだから、きいちの腹筋は見事に崩壊した。
「ぐふっ、あ、やべ。」
「ふぁああーん!!!!」
せっかく大人しくしていたのに、きいちが吹き出した音にビクリとしたのか凪がギャン泣きである。
慌てて泣き止まそうと抱き上げると、何故かスポットライトがあたった。
「はいっ、じゃあヨメさん判定はいりやーす!!きいちー!!こっちゃこーい!!!葵もー!!」
「ああ!?!?」
突然会場から注目をされてしまい、ふにゃふにゃ泣く凪も目を丸くしてきょとんとした。会場からは、桑原先輩の番さん?や、まじかようらやましい、といった声がチラホラと聞こえる。葵は葵で、なんで俺まで!?といった具合だ。いつまでも注目されているのも嫌なので、益子は後で処すと心に決めるとそそくさと壇上に上がった。
「ハイいらっしゃ~い。皆さんこいつが噂の桑原先輩の番くんでーす!みんなチーフつけてる子達の目指すところはここですよーいいですかぁ。入学希望者は資料持って帰ってねぇ!」
「おい学校の宣伝を僕でしないでくんない!?益子の番が葵さんですよお!!!このきれいな人は葵さんで益子の番ですよろしくおねがいしまああす!!」
「ええ!?!?なんで俺までとばっちり!?!?」
突然の登場に笑い声やらなにかの悲鳴、そしてまさかの司会者の番が学外の人ということもあり、チーフをつけていたグループは異様な盛り上がりを見せる。青木は疲れたような顔をし、田辺はきいちたちの格好をみて興奮したように鼻息を荒くする。
「うおーやっぱちげえな!?きいち先輩まじエロいっすねそのレース!どっすか、俺。前よりも更に近づいてません!?」
「田島だっけ?相変わらず距離ちかいなおい。」
凪が田辺の顔を見てえぐえぐと愚図る。勢いがすごかったらしい、きいちは苦笑いしながらあやしていると、葵さんが間に挟まるようにして凪の視界を遮る。
青木は青木であわあわしながら田辺を嗜めるのだが、本人は二人が揃ってしまったことで変な方向にテンションがあがってしまったらしい。
「田辺です先輩、お前馴れ馴れしいから早く離れろって。」
「なんだよ、こんなことねーって!なあ先輩!」
「うーん、遠近法つかっても似てない。残念!」
スパンと切り捨てたきいちに会場が笑いに包まれる。もはや完全に余興扱いだ。青木も少しだけ溜飲が下がる。だってこいつはナルシストすぎて煙たがられているのだ。ただのナルシストならいいが、見る目がえろい。青木もさっき尻を触られてぞわっとしたし。
「嫁判定NGでました!!みんなは後で俊くん登場したときに答え合わせをしてみてねん!!田辺残念っまた挑戦してねえ!!」
「し、主旨が変わってる。」
苦笑いする青木に、田辺はなんでだあ!!と叫んで笑いを誘う。そのままきいちたちは何故か一席用意されたのでパイプ椅子に腰掛けて残りのシーンを見ることになった。
「てか審査員席に末永くんいなくない。」
「あれ、たしか一席用意されたとか言ってたよね…?」
何故か離席中という札がたてられ、柿畠くんがつかれた顔して座っている。なんだか少しだけやつれているが、振り回されたのだろうか。末永も末永でマイペースなところがあるので、いつも後輩は大変そうである。
二組目の2年カップルが自己アピールで漫才をするのを見ながら、キョロキョロと末永を探していたときだった。
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