1 / 2
第1話
「佐狐 って彼女作んないの?」
明るい髪色、限界まで折ったスカート、濃い化粧にキツめの香水。
そして、彼女の話題。
「作らない、というよりは、作れないかな」
「アタシとかどう~?」
「俺外部進学考えてるから、あんまり気持ち的に余裕ないんだ」
そう言えば、女子たちはそっか~と間延びした返事をして散っていく。
佐狐は軽く息を吐いてから鞄を持って教室を出る。下駄箱に向かう途中の部屋ではたと足を止める。
(会えないかな……)
毎日のように通る用務員室前。その部屋の主は卯尾光景 という。
男性にしては気持ち背が低めで、武骨な手をしている。顔はどちらかというと強面で、少し怖そうな印象もある。
そんな彼は、男性にしては甘ったるい香水をつけている。それは別に嫌な甘ったるさではなくて、その匂いが心地よくて気付けば彼の傍に居たいという欲が芽生えていた。
「何か用でもあるのか」
「あ、卯尾さん」
モップとバケツを持った卯尾に声をかけられる。どこかを掃除していたのだろうか。
「いえ。その、卯尾さんいるかなって思ってただけです」
「俺に用事でも?」
「顔を見たかっただけ、というか」
そう言えば、卯尾は明らかに怪訝な顔をした。
「妙なことを言うな、相変わらず」
「妙とか言わないでくださいよ」
「指定校は成績が大事なんだろ。試験も近いんだからさっさと帰んな」
空いている左手でぺっぺとジェスチャーをされ、仕方なしにその日は学校を後にした。
ともだちにシェアしよう!