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第2話

 マンモス校の高等部ともなれば、学校はかなりの面積を誇る。生徒数だって少なくない。そんな中一人で一手に雑用を引き受けている卯尾はかなり忙しそうである。 「……よそ見してんなよ、佐狐!」 「あ、ごめんごめん」  横を通り抜けて行ったボールを小走りで追いかけて、相手に投げ返す。  花壇の整備まで彼の仕事なのか、地道に草むしりをしているところが目についてしょうがない。たまにあるのだ、体育の時間に彼が仕事をしていることが。 「ったく、な~に見てんたんだァ?」  授業終わり、彼はそう声をかけてくる。 「卯尾さんいるなぁって思っただけ」 「まーたあのオッサンかよ。女子が泣くぞ」  折角のα様がオジサンに現抜かすなよ、と獅子王(ししおう)に肩を小突かれる。  明るい金髪に、ピアスがバチバチに開けられた耳。見た目は不良そのものだが、案外真面目に授業を受けているし成績も上から数えた方が早いくらいだ。 「別にαだから絶対Ωを好きにならなきゃいけないとか、そういうことないでしょ」 「お前マジであのオッサン好きなん?」 「好きか嫌いかで言えば好きだよ。ただ、そういう好きかはよくわかんない」  そう返せば獅子王は眉間に皺を寄せてわかんね~と呟いた。 「分かってもらえなくても良いよ、ライバルは少ない方が良い」 「そんな警戒せんでも、あのオッサンを狙ってるのなんてほぼいねぇっての」  そんなやりとりをした後は適当に座学をこなして、放課後は図書館に向かうがてら少しだけ用務員室を覗きに行く。 (猫間(ねこま)先生じゃん……)  父親が海外の人だそうで、本人も高校二年生までは海外で過ごし、こちらへ越してきたという彼。異国の血が入っているというだけあって、容姿はかなり日本人離れしている。こげ茶色の髪の毛に、鮮やかなブラウンの瞳。何より特徴的なのは背で、百九十二センチにもなるという。  そんな彼が、卯尾と喋っている。 「……ありがとうございました。すみません、手間取らせてしまって」 「俺も仕事はある程度片付いてたんで、別に」 「つまらないものですが」  そう言って猫間は小箱を渡して軽く会釈をし、こちらへと歩いてくる。 「佐狐くんじゃないですか。どうかしたのかな?」 「いえ、別に」  猫間のことは嫌いではないが、苦手ではあった。  αは他のαのことは基本的には認識できない。αが認識できるのはΩだけ。本来そのはずなのだが、αも感じ取れるような強いフェロモンを発するαがいる。それが猫間なのだ。 「提出物の出来、今回もかなり良かったですよ。テストも期待しています」  低さの中にどこか甘さが潜む声は、女子たちからもイケボだなんだと騒がれていた。 「そっすか。ありがとうございます」  圧だ。  温和で物腰も柔らかだが、どことなく恐怖感を覚える。取って食われるのではないかと勘繰ってしまうのではないかと。 「じゃ、俺、図書館行くので」 「頑張って。応援していますよ」  軽く手を振られ、自分も手を振り返してからは競歩で向かう。  なんとなく今は卯尾を見たくなかったのだ。

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