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第58話
☆記憶にございません☆
「じゃあ、俺からも質問してもいいか?」
さっきとは打って変わって、東条 千秋の声のトーンが変わる。
本当に怒ってたのか。
声のトーンだけでなくて雰囲気も違うくなり過ぎて拒否反応(してるけど)ではない震えがきそうだった。
ごくり、唾と一緒に込み上がる吐き気を飲み込む。
「なんで、逃げた?」
さっきより険しい顔をした東条 千秋が言う。
逃げた?
さっきのことか?
「おま…あんたがさっきこっちに近寄ってきたから」
「違う。さっきのことじゃない」
さっきじゃない?
じゃあ、あの雨の日のことか?
「雨の日のことはあんたがいきなりスカートの下から触ったからで…。驚いて…」
そして恥ずかしくて逃げた。
「…それもだけど、俺が言いたいのとは違う」
はぁ?ナンパされた日と雨の日以外に俺はこの男の目の前から逃げてないはずだ。
「……覚えてないのか?」
覚えてるも何も俺、そこまで東条 千秋との接点がない上に出会って間もないのだから間違うはずがない。
だから俺は小さく頷いた。
そしたら東条 千秋の大きい溜め息が聞こえた。
いや、だって覚えてない…というか記憶がないのだから仕方ないだろう。
「…朝」
「えっ?」
「朝…てめぇに話掛けたのにスルーされた」
「へ?」
朝?スルー?
何を言ってるんだこの男。
俺はわからず首を傾げた。
「覚えてないのかよ…。俺、校門からお前の教室の近くまで一緒にいたんだぞ」
わぁ、あれだ!
俺のスーパー無意識タイムの時だ!
そんな時に話掛けたら記憶ないし覚えてるわけないじゃん!
やっと気付いたの教室の席に着いた時だもの!
あれ?でも、透も一緒に登校したなら分かるよな?
スーパー無意識タイム終わった時に教えろよ!
なんで『怒った』っていう単語しか出さなかったの!
人のせいにしちゃいけないけど!
「ご、ごめん。わからなかった…」
でもここは素直に謝ろう。
「あ“?」
でも東条 千秋は険…とても怒ったような顔になった。
フェンスを握る力が強くなったようで少しカシャッと音がする。
うぉぉ、寒気する、お辞めなさい、東条 千秋君。
お、お、落ち着きたまえ。
「てめぇ…俺は隣いたんだぞ?それに顔覗いたり、前に立って通せんぼみたいにした俺に気づかねぇだ?どんな目してんだよ?」
だからそれはスーパー無意識タイムでして…。
てか俺そんなのやられておいて気付かないとか本当にどんだけだよ。
もう、小春のお馬鹿さん!てへぺろ☆
…なんてやってる場合じゃない。
そして、てへぺろ☆よりもてへげろ☆だ。
…ごめん、更に何やってんだ自分。
これも全部記憶がないからだ!
えっ、違う?
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