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オレの乳首はスイッチじゃないことを知っておいてもらいたい

「おはよー」 「おはよう」 「おはようごさいます」 「やっほー」    言い方はどうであったとしても朝の挨拶だ。  廊下の扉に近い席にいるオレをみんなが通り過ぎて教室の自分の席に座る。  その際に軽く朝の挨拶として声をかけてくれるのはいい。  むしろ、外部進学で周りから浮いていたので嬉しいぐらいだ。    エスカレーター式の男子校にありがちなのか、外から入ってくる生徒に対して「見慣れない」という視線がある。  ずっと同じ場所で同じメンバーで生きていた中に知らない人間が混じるんだから浮かない方がおかしい。  でも、学園側からの配慮なのか性格適性検査の結果オレはB組に所属することになった。  中途半端だと思ったが今ならそれが最高だとわかる。    なにせ、A組になったオレと同じ外部進学をしてきた生徒は今では学園中で噂になっている大物だ。  それはもちろん本人の意思じゃない。  同じ外部進学をしてきたもののよしみで顔を合わせれば話をするがどうやらA組にいた生徒会役員や顔のいい学園の人気者に好かれたらしい。校風に染まっていないので男への興味はゼロの完全に異性愛者な噂の的の彼は疲れながらに楽しそうにしている。    波乱万丈な生活はオレには向いていないのでA組になっていたら地獄だろう。  別段、外部進学をしてきたからという共通事項だけでオレと彼の立ち位置が変わるとは思えないがクラスが同じだったら余波がきそうだ。    この学園は平均的に容姿がいいものが多い。  オレやA組で学園をにぎわせている彼のような平凡は少ないのだ。  だから、珍しがられて構われる。  ただB組は生徒会役員をはじめとする美形が好きな生徒が多く在籍している。  俗に言う親衛隊が多くいるクラスだ。  そのため奇異の目をわざわざ向けてきたりしない。   「はよー、今日も平凡な顔してるねー」    と、馬鹿にされているような朝の挨拶をしてくる女顔の生徒はいるが悪意はない。  本当に心からオレの顔を平凡だと思っているだけだ。  米谷は初対面から失礼で無神経なやつだったが、特別オレにだけではなく誰にでもそうだった。  少年と少女のどちらにも見えそうどころかガッツリ少女に見える顔立ちの米谷。  同い年でも年下に感じる見た目につい大抵の発言は許してしまう。かわいいって得だ。   「あ、ちょっと……肌がざらついてる。もしかして寝不足?」 「おはよ、……肌のざらつきとかどうでもよくないか……」    男が自分の肌艶を確認するのは気持ち悪いと思う。  オレの発言に隣の席の国本が机を叩く。   「ばかっ、ばかものっ!! 触るのは滑らか肌がいいに決まっているだろっ」    国本はメチャクチャかわいい。かわいいのだが変な武士口調が全てを壊している。  小さくこじんまりしていて理想の弟キャラみたいな国本は先輩たちに大人気らしいが生徒会長の親衛隊に所属しているのである意味恐れられている。どうも親衛隊に入っている生徒に何かがあると集団で報復してくるので怖いらしい。    髪に絶対柑橘系の飾りをつけている通称ポン酢もやってきた。  こいつも国本と同じで小さくてかわいい。  米谷は小中学生的な美少女、国本は小中学生的な守ってあげたくなる系美少年、ポン酢は国本とは違う女子に騒がれるタイプの美少年。   「ほっぺとほっぺを合わせてシアワセ」 「ぽんず……それ、お手てのしわとしわじゃないのか」 「それはしわ合わせだね」    女子に騒がれそうな見た目にもかかわらずポン酢はどこかボケている。  柑橘系の髪飾りのチャーミングさと本人のキャラはマッチしているが顔の作りのクールさと違いすぎる。   「寝不足になるまで何してたのー、ナニー」 「米谷! 乳首触んなっ、もうやめろっ」 「顔がざらざらでも腹は平気だろ?」 「……っ!! 国本ッ! シャツの下から手を入れるなっ、へそはマジやめろ」 「この流れはおれのキス待ち?」    ポン酢にツッコミを入れる前に顔が近づいてきた。  目の前が急に暗くなったと思ったらポン酢を含めて三人ともが床にうずくまっていた。  オレの意識が暗くなった視界に奪われている間に何があったのか。  たぶん、目の前の鍵山に殴られたんだろう。ふざけすぎだ。   「へーぼん……って、モテんの?」    勝ち気な釣り目は怖い印象になりそうなものだが短パンが似合いそうな少年らしさが抜けない鍵山に限って言えば子猫のようなかわいらしさがある。  体育の時なんか大活躍で格好いいのだが小柄で整った顔は変に色気がある。ただ同い年には見えない。  米谷、国本、ポン酢、鍵山、いいやこの教室にいる大半の生徒が小学校から上がってきたばかりの中学生ならまだ納得がいく。発育不良なのかそういう家系なのか童顔でかわいい。人によってはオレと十五センチは身長差がありそうだ。   「なあ、へーぼん」    鍵山が首をかしげてオレを見る。  自分を魅力的に見せる角度を知っている女子から攻撃を受けている気分になる。  この学園がホモ大量になる理由は男が好きな男ではなく女の代わりに見える男や男を惑わせる男がいるからじゃないだろうか。ちなみに前者は米谷であり、後者は鍵山だ。   「なぁ、なぁ……なんで、朝からこんなになってんの? モテモテ?」    オレは思わず口元に手をやった。  鍵山はそれを許してくれない。   「……ひっ、い、いたぃ」    思いきり乳首をつねられてオレは涙目になった。  鍵山はさっきからオレの乳首を優しくなでていた。  いいや、鍵山だけじゃない。  朝の挨拶をしながら通り過ぎていったクラスメイトは当然の儀式のようにオレの乳首に触れていく。  米谷なんか会話をしている最中、ポンポンダッシュかというぐらいに連打してきた。   「おまえら、オレの乳首をなんかのスイッチだと勘違いしてないか?」    みんなが仲良くしてくれているのは嬉しいがオレだけされている乳首押し。  ちょっとしたいたずらかと思って放置したが慢性化している今はどうすればいいのかわからない。  最初に乳首をきちんと守っていればこんなことにはならなかったのかもしれない。   「……あん? 乳首はスイッチだろ」    鍵山の言葉に復活したらしい米谷が美少女顔で「勃起スイッチ!!」と言い放つ。  かわいい顔を裏切る下品さはどうにかした方がいい。   「オレを勃起させてどうしようって――」 「朝の教室でそういう発言はやめたまえ」 「……国本、オレよりさきに米谷に言え」 「望みなら今すぐここを乱交会場にしてやんぞ?」 「鍵山……血の気が多すぎる」     乱闘会場って何だよ。あぶねえ。 -------------------------------------------------------------------- 蛇足 チワワ=親衛隊所属という解釈なので米谷、国本、ポン酢、鍵山はそれぞれ生徒会役員の親衛隊に入っています。 「でも、俺らは偽チワワだな」 「鍵山……それって?」 「会長などどうでもいいということだ」 「でも、国本は会長の親衛隊なんだろ?」 「邪魔なクズ避けに使ってるだけってこと。へーぼんは頭悪いなぁ」 「鍵山よりも成績いいし」 「何くちびる尖らしてんだよ。誘ってんのかヘンタイ」 「鍵山は発言がいちいちオヤジ……」 これを入れるとチワワじゃなくなる?

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