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「運命の番」  それは、第二の性を持つ世界で最も幸福な関係を示す。  男女、あるいはLGBTQの性以外に存在する第二の性。アルファ、ベータ、オメガの3つを有する人間たちの世界では、アルファは人口の3パーセントを占めるその世界の上位の人間。地位も名誉も富も全てを与えられた存在。この世の人間の7割を占めるベータは努力次第でその能力を伸ばすことも殺すこともできる一般人として位置づけられている。そしてオメガ。人口の0.5パーセントしかいない希少種。成長過程でその「異質」さが現れるようになる。3ヶ月に一度訪れる「発情期」のために、一週間から二週間ほど社会生活を送ることが不可能になる。そのため、社会の中のオメガの位置付けは守られるべき庇護の存在として認識されていた。  そんな中でも特にアルファとオメガの特異な両種の結びつきは社会問題にまで発展している。アルファに抑え切れないほどの性的興奮を呼び起こすのは、オメガの発情期に発されるフェロモンのみ。両者はお互いの存在に留意しながら社会生活を送っている。たびたびニュースになるのは、「抑制剤」と呼ばれるオメガの発情期のフェロモンを体外に放出するのを抑える薬が効かなかった際、その香りに当てられたアルファにオメガが襲われるという事件。その行為中熱にうなされたアルファとオメガの意識はなく、被害者・加害者の区別も容易ではなかった。自らの身を守れなかったオメガに批判の声は強まり、自殺してしまう者も少なくない。  その一方で、二つの性には「運命の番」と呼ばれる幸福なカタチが存在することも知られている。産まれた場所、年齢、性格、思考を越えて運命という強い糸で繋がっている者同士が出会えば、そのオメガのフェロモンに当てられた際アルファは性欲の暴走を起こさない状態になる。これを第二の性を研究する本では「性の鎮静化」と説明している。  アルファがオメガのうなじを噛むことで「番」と呼ばれる究極の関係性が生まれ、そのオメガはアルファに依存するようになる。これは運命の番を求めるアルファの一方的な行為で行われることも少なくない。  そして一度番になったオメガはその番を解消されても一生そのアルファに依存してしまうという副反応を起こす。番になっている間はオメガの発情期が途絶えるので、世の中にはビジネス番と呼ばれる一種の相互関係を結ぶアルファとオメガも存在している。アルファは性欲を発散する相手を見つけ、オメガは発情期を止める術を得る。普通の社会生活を望むオメガがアルファに話を持ちかけることも多いが、個人契約のためいつ番を解消されるかわからない分、オメガはアルファにさらに依存的になる。実際の事件として、オメガがアルファから性的暴行や虐待を受けることも少なくない。     そのため、むやみやたらにあるいはオメガの許可なしにアルファがオメガのうなじを噛むことは法律で禁止されている。それを破った者は禁錮10年の重い罪に問われるのだ。しかし、多くは多額の釈放金を払って刑務所から出てしまうため、現在も様々な法改正が行われている途中にある。

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