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2 運命の番
「運命の番」
それを聞いて、人は何を思い浮かべるだろう。運命の人、というのはわかる。運命的に出会う人のことだ。小指に赤い糸が垂れて、それが繋がっている相手。一生に一度出会えるかという奇跡の確率。
そうしたら「番」とはなんだろう。
日本では太古より鳩が番を作ると言われる。鳩は一夫一妻制で、番になった雄と雌は一生添い遂げる。そうして子を産み、新しい命を育てるのだ。
「運命の番」
それは、第二の性を持つ世界で最も幸福な関係を示す。
男女、あるいはLGBTQの性以外に存在する第二の性。アルファ、ベータ、オメガの3つを有する人間たちの世界では、アルファは人口の3パーセントを占めるその世界の上位の人間。地位も名誉も富も全てを与えられた存在。
この世の人間の7割を占めるベータは努力次第でその能力を伸ばすことも殺すこともできる一般人として位置づけられている。
そしてオメガ。人口の0.5パーセントしかいない希少種。成長過程でその「異質」さが現れるようになる。
3ヶ月に一度訪れる「発情期」のために、一週間から二週間ほど社会生活を送ることが不可能になる。
発情期のときにはオメガの身体に強い性的興奮と倦怠感をもたらす。そのため、社会の中のオメガの位置付けは守られるべき庇護の存在として認識されていた。
生物学的特徴としての過不足ゆえの生きにくさ。それを尊重し、アルファ、ベータ、オメガの3種類の人々が助け合う社会を作ることが現代社会の福祉的課題と言われている。
そんな中でも特にアルファとオメガの特異な両種の結びつきは社会問題にまで発展している。
アルファに抑え切れないほどの性的興奮を呼び起こすのは、オメガの発情期に発されるフェロモンのみ。
両者はお互いの存在に留意しながら社会生活を送っている。
たびたびニュースになるのは、「抑制剤」と呼ばれるオメガの発情期のフェロモンを体外に放出するのを抑える薬が効かなかった際、その香りに当てられたアルファにオメガが襲われるという事件。
その行為中熱にうなされたアルファとオメガの意識はなく、被害者・加害者の区別も容易ではなかった。
自らの身を守れなかったオメガに批判の声は強まり、自殺してしまう者も少なくない。
世の中はSNSが発達したことで、情報収集が容易くなった。その弊害、負の副産物としてネットの誰かがまるで裁判官のように、罪人の罪を裁こうとする動きがうかがえる。
犯罪のなき社会へ、犯罪者は断じて重刑罰であるべきという風雲のさだめのように。社会は急速に過密になっては、あぶれた者を石打ちにして傷めつけていく。
その一方で、二つの性には「運命の番」と呼ばれる幸福なカタチが存在することも知られている。
産まれた場所、年齢、性格、思考を越えて運命という強い糸で繋がっている者同士が出会えば、そのオメガのフェロモンに当てられた際アルファは性欲の暴走を起こさない状態になる。これを第二の性を研究する本では「性の鎮静化」と説明している。
第二の性についての研究は日夜行われているが、まだまだ未解明なことも多く研究者はラボに詰め込まれる生活を余儀なくされている。
アルファがオメガのうなじを噛むことで「番」と呼ばれる究極の結びつきの関係性が生まれ、そのオメガはアルファに依存するようになる。
番となったアルファとの行為でしか抑制剤を服用する以外で発情期を抑える術がなくなり、これは運命の番を求めるアルファの一方的な行為で行われることも少なくない。
そして一度番になったオメガはその番を解消されても一生そのアルファに依存してしまうという副反応を起こす。
番になっている間はオメガの発情期が途絶えるので、世の中にはビジネス番と呼ばれる一種の相互関係を結ぶアルファとオメガも存在している。
アルファは性欲を発散する相手を見つけ、オメガは発情期を止める術を得る。
普通の社会生活を望むオメガがアルファに話を持ちかけることも多いが、個人契約のためいつ番を解消されるかわからない分、オメガはアルファにさらに依存的になる。
実際の事件として、オメガがアルファから性的暴行や虐待を受けることも少なくない。
そのため、むやみやたらにあるいはオメガの許可なしにアルファがオメガのうなじを噛むことは法律で禁止されている。
それを破った者は禁錮10年の重い罪に問われるのだ。しかし、多くは多額の釈放金を払って刑務所から出てしまうため、現在も様々な法改正が行われている途上にある。
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