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困ったように眉を寄せる岸本を一瞥して静かに目を伏せる。さて、どうしたものか。
「おまえなら後でもやれると思っただけだ。百田の指導方針と俺の方針は違う。合わなければ向こうに行ってもいいぞ」
そんなことありませんと岸本は首を振る。
「早く現場に出たかったので願ったり叶ったりです」
「そうか」
飲み干したカップをくしゃくしゃにしてゴミ箱に突っ込み、休憩室を後にする。岸本のことを自信満々の前のめりな人物だと思っていたが、どうやら冷静な一面も持っているらしい。これは鍛え甲斐があるぞと思って小鳥遊は悠々と部署に戻った。
「部長。確認よろしくお願いします」
ちょうど16時ジャストに小鳥遊のデスクに岸本がやってくる。クリップで止められた資料を受け取り、ぺらぺらと端をめくっていく。誤字もなく、初めてにしてはフォームも整っている。隣のデスクに座るふたつ上の先輩の山瀬にでも教わったのだろう。彼の癖が少し出ているのがわかる。
「中身には問題がない。だが、この表は少し見づらいな。線を細くしてもう一度やってみろ。終わるまで待つ」
岸本は素早く席に戻った。小鳥遊はあえてここで待つと伝えた。それは目上の者を待たせるプレッシャーに耐え切れるかどうかを見るためだった。これでミスが起きれば緊張に弱いタイプだとわかる。
5分もしないうちに岸本が戻ってきた。その表情に焦りの色はない。改善した点を見ながら、もう一度表の端から端まで隅々とチェックする。特にミスはないようだった。
「たしかに受け取った。今日はもう上がっていいぞ」
「でも、まだ他の同期は勤務してますし……」
やはり向こうの進行が気になるらしい。そこで小鳥遊はもう一つの課題を与えることにした。
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