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67 告白 R18
ふっと岸本が笑う気配があった。自然に溢れる笑みが浮かんでいる。
「でも、もう無理なんです。あなたがいないと」
静かに小鳥遊の方へ岸本が身体を動かす。1歩、2歩と近づいてくる。その歩みは確かで強かだった。
「あなたなしの身体ではいられなくなったんです。俺の心も身体も全部小鳥遊部長に奪われてしまったんです」
岸本の表情は弱々しい。声も次第に小さくなっていく。
「今でも嫌いで……大嫌いで……っでも、離れられないんです」
嗚咽混じりに岸本が言う。小鳥遊はそれをただ見ていることしかできなかった。
「部長のことが忘れられないんです。いつも思い出すんです。部長の笑った顔とか、怒った顔とか、気持ちよさそうな顔とか全部、頭から消えてくれないんです」
言葉が喉元までせりあがるのを、小鳥遊は必死で耐えた。
「やっと気づいたんです。俺、部長のことが好──」
小鳥遊は岸本がその言葉を発する前に、口に封をした。もご、と岸本の唇が動くのを押さえつける。目を見開いた岸本の後頭部に、そっと手を添えた。
口を離す。そして岸本の耳元で呟いた。
「……好きだ。岸本」
岸本の身体がぴくりと跳ねる。ふるふると肩を震わせて小鳥遊の肩に額を押し付けた。
「ずるいです。部長」
しゃがれた声で岸本が言う。小鳥遊は黙って岸本の背中を撫でた。優しく、壊れないように、もう2度と離さないように。
いつまでそうしていただろうか。恐る恐る岸本が小鳥遊の背中に手を回す。2人の身体が密着した。触れるところから熱が生まれて身体を温める。小鳥遊はこのとき、岸本のことを湯たんぽのようだと思った。白い雪がしんしんと振る頃に、また2人の人生は重なった。
2人並んで歩いて小鳥遊の自宅に帰った。岸本がドアを閉めた瞬間、小鳥遊は岸本の頭を抱えて深く口付ける。掠れた吐息が、岸本の口からこぼれた。嫌がっている素振りはない。
廊下までそのまま進むと、ベッドがある寝室に入った。小鳥遊は器用にサイドテーブルに置いてある間接照明をつける。ほんのりとオレンジ色に色づいた光が部屋を照らした。岸本の横顔にも光が当たる。それが綺麗だと小鳥遊は思った。
「ふっ……ん」
スーツが乱れることなどお構いなしで、小鳥遊は岸本を押し倒す。岸本も全身の力を抜いて小鳥遊にその身を捧げていた。
ちゅくちゅくと甘い水音が2人の間から生まれる。その愛おしい顔を見つめるため、小鳥遊は一度口を離した。お互いの唇から白銀の糸が垂れる。
なんて顔をしているんだ。お前は。
とろんと熱に浮かされた様な瞳でこちらを見つめる岸本に、心臓を鷲掴みにされる。今すぐにでも抱いて、めちゃくちゃにしてやりたい。そんな邪な欲望が身体を支配しそうになる。それを耐えて、ただ上から覆い被さる様に抱きしめた。
ワックスで固められた岸本の髪が崩れている。整髪剤の匂いだろうか。シトラスの香りが鼻をついた。指先から想いが伝わる様にと優しく頬を撫でる。一瞬だが、岸本はぴくりと身体を動かしたがすぐに脱力した。惚けているような顔で小鳥遊のことをじっと見つめてくる。
「部長?」
小鳥遊のことをただ黙って見ていた岸本が声をかけてくる。小鳥遊はこの後どのようにすればいいか迷っていた。このまま押し倒して抱いてしまいたい気持ちと、それでは身体目当てだと思われてしまわないかという懸念とがないまぜになる。
「っおい」
ちゅ、と岸本が小鳥遊の指をおもむろに吸ってきた。はしたない音を立てて小鳥遊の指をどんどん口内に飲み込んでいく。次第に甘噛みをするようになってきて、小鳥遊は自分の身体が熱を持つのをはっきりと感じた。
「部長……早く俺を抱いてください」
岸本なりの精一杯の一言なのだろう。目元が微かに震えている。綺麗なまつ毛が小刻みに揺れていた。小鳥遊はそれを合図に岸本のワイシャツに手をかけた。ボタンをあえてゆっくり外していく。岸本は脱ぎやすい様にと身体を起こした。自ら剥ぐ様に服を脱ぎ去る。小鳥遊もベルトを外してスラックスを下ろした。お互い生まれたままの姿で向き合う。
「岸本」
期待に満ちた眼差しでこちらを見る岸本と目が合う。とくん、と心臓がゆるやかに跳ね上がった。手を掴み、ベッドに縫い付ける。ベッドの上で2人の影がたゆたう。
「小鳥遊部長っ」
小鳥遊に揺さぶられながら、岸本は想い人の名前を呼ぶ。小鳥遊はその声に胸が締め付けられた。下から突かれる度に、岸本は心の奥底が満たされていくのを感じた。
小鳥遊の触れた先からぴりりとした熱を生む。それが岸本の体のあちこちを支配していく。その感覚がたまらなく愛おしい。そう思っているのは岸本だけではないようで、小鳥遊も頬を上気させて岸本に触れる。
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