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「あなた達は番の契約を結んだと伺っているのだけれど……岸本さん、うなじを見せてもらえますか」  岸本はくるりと可動式の椅子の向きを変えて、着ていたTシャツを下げた。赤い歯形の跡がうっすらと浮かび上がっている。女医は何度か確認するようにうなじを押してみたりつねったりした。特にこれといった痛みもないので無反応でいると「いいですよ」と声をかけられたので前に向き直った。 「噛み跡はしっかりついていますね。やはり原因は小鳥遊さんにあると考えられます」  小鳥遊の体が一瞬だがぴくりと反応する。 「番とはアルファとオメガの間に生まれる特異な契約関係です。通常、この番関係はどちらかが死ぬまで有効となります。あなた方のようなケースは前例がないので憶測になりますが、不完全なアルファである小鳥遊さんの体質の影響が番となった岸本さんにも現れたのだと考えられます」  小鳥遊は毅然とした表情で女医を見つめる。岸本もそれにならった。 「オメガの発情期は基本的には3ヶ月に1度の周期で現れますが、今回は不完全な番契約となってしまったため、岸本さんの体になんらかの異常が現れたのだと推測されます」 「異常というのは?」  小鳥遊がそう問うと女医は小さくかぶりを振った。 「発情期不順です。周期がバラバラになりいつ訪れるか予測がつかない状態のことをいいます」  岸本は発情期不順という言葉に頭がきりきりと痛みだした。ただでさえ辛い思いをするのにこれからはそれが不定期にやってくる。それを考えると叫び出したい衝動に駆られる。

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