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69 新しい日常

「おはようございます」 「おはよう」  俺たちの朝は挨拶から始まる。そして、俺の方から岸本の頬に口づけを落とす。そうすると、ふやけた《《おふ》》のように岸本は溶けるのだ。味噌汁に入れたらきっと美味い。  契約の先にあったのは、愛おしい日々だった。  そんな日々が続いて1ヶ月。俺たちは短くも濃い日々を過ごしていた。  2人で初めて行った遊園地。絶叫系が大好物だという岸本についていけば、秒で脱落。俺のために苦手なものを好きだと言ったのだという。今でも笑えてくる。なんて馬鹿なんだ、と。  2人で朝の支度をして、会社にはわざと時間をずらして行く。仕事中はあくまで上司と部下という関係。そこは鉄の掟だった。  帰宅時間もずらし、小鳥遊の家でお互いを待つ。たいていは岸本が早く帰って、夕食の準備をしてくれていた。 「いただきます」 「どうぞ。今日はちょっと西欧風にしてみました」  魚介が散りばめられたパエリアに、野菜たっぷりのミネストローネ。湯気のたつそれを静かにスプーンですくう。茜色の液体が体を温める。ほっと、一息つくとその反応だけで満足したのか岸本が笑う。目尻を落として、唇を横に伸ばして。にこにこと笑うのだ。俺は最近、その顔が愛おしくてたまらなくなっていた。  シャワーを浴び終え明日の支度を済ませると、どちらともなく体に触れる。  俺は自分がこんなにも感情をストレートに出せるようになって驚いている。キスをしたければ岸本の顎を掴み、唇を合わせる。抱きしめたければ、後ろからそっと壊れ物を扱うかのように抱きしめる。その温もりに心が癒されていた。 「小鳥遊さん」  いつからか、岸本は俺のことを部長と呼ぶことは少なくなった。俺の名前を恥じらいながらも呼んでくれる。それが嬉しいのだ。だから俺も、岸本の名前をまっすぐと呼ぶ。 「雄馬」  名前を呼ぶだけで耳まで真っ赤にさせる岸本が面白くて。俺はついつい名前を呼びたくなってしまう。  今日も朝まで離してやれないな……なんてことを思いながら、シーツに縫いつける。岸本の顔は期待と不安とで満ちている。 「小鳥遊さん……」  重なり合う直前、掠れた声で岸本が俺の名前を呼んだ。

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