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「それを治す方法はないんですか」  岸本の不安を代弁するように小鳥遊が聞く。女医は静かに首を振った。 「現在の医療では治療方法が確立されていません。しかし、唯一発情期を抑える方法があります。問診票に書いてくださったことになりますので詳しくお聞きしてもよろしいですか?」 「はい」  ゆっくりと小鳥遊が頷いたのを見て女医は岸本に向かい合った。 「発情期のとき小鳥遊さんとの性交渉後すぐにそれが治ったと書いてありましたよね。何か心当たりはありますか?」 「体の熱がスッとなくなったみたいで、体が軽く感じました。性欲が飛んでいったみたいな感覚でした」 「その感覚の引き金になった行為に心当たりはありますか?」  えっと、と岸本が恥ずかしそうに目を伏せるのを見て小鳥遊が代わりに口を開く。 「アルファの精液を体内に吸収した直後でした。彼の発情期が収まったのは」  かぁっと頬を染めながら岸本が小さく頷く。女医はなるほどと相槌を打った。 「通常オメガの発情期を抑える方法は2種類あると言われています。1つは発情期が始まったときに抑制剤を飲むこと。薬の種類にもよりますが5分から30分前後で発情期を抑えることができます。そして2つめは、番の契約をしているアルファの精液を体内に吸収することです。これには即効性があるので大抵の番契約者のアルファとオメガはこの方法をとっています。発情期はパートナーとの愛情を確認する時間にもなるんです」  岸本はオメガと判定された直後に受けた保健体育の授業のことを思い出していた。発情期を抑える方法はいくつかあることを教わっていたが、番の相手の精液を体内に取り込むことで発情期が抑えられるということは初めて知った。あのときはオメガである自分を守るための方法だけを教えられていたから、番になったあとの行為については詳しく教えてもらわなかった。

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