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75 1年記念日 R18

「あ、勃ってきた」  先程から岸本に馬乗りにされて早5分。さわさわと下半身をまさぐられて、そこは兆していた。断じて言う。撮られているからではない、と。そう信じたい。というか……本当に重いな。筋肉付けすぎだろう。前は俺の方がガタイが良かったのに。心の中で舌打ちをすると、岸本が嬉しそうに顔をのぞきこんできた。 「愛憎弁当のことですけど……美味かったですか?」 「美味いも何もないだろう。白米だけなんだから」 「でも、俺の愛情? 愛憎は込めてましたから」 「愛憎ってな……俺には心当たりがないんだが」  はぁ、と大型犬が大きなため息をひとつ。その顔は呆れている。 「一昨日、何の日か覚えてますか?」 「……いや、なんだ。お前の誕生日は8月13日だから、まだ先だろう」 「……そこは覚えているんですね。ちょっと嬉しいんですけど……。一昨日も俺たちにとって重要な日でしょう」 「すまん。わからない……」  岸本はずてっと床に倒れ込んだ。古い芝居だなぁとぼんやりと見つめていると、岸本は俺の腕を唐突に噛んだ。 「痛っ。なにする」  がぶがぶと腕に噛み付く(もちろん甘噛み)岸本を手で追い払うと、今度は迷子の犬のように瞳をうるませて言う。 「一昨日は付き合って1年記念日だったでしょう?」 「あ」  俺には記念日には、かなり弱い方だ。以前の恋人、守の誕生日すら覚えられなかった頃は怒りで血迷った守にぬいぐるみを投げつけられたこともある。だから、そんな失敗をしないようにと俺は誕生日だけは覚えるようにしていたんだが。まだまだだな。  言い訳じみているかもしれないが、毎日一緒にいれば、何時出会ったとか、記念日とか。そういうの全部ひっくるめて大事だけど、照れくさくて祝うのもどうかとしり込みしてしまうのが俺の性格だ。 「お前は祝いたかったか?」  申し訳なさそうに聞いてみる。すると、 「もちろん! それに、一昨日は小鳥遊さんが疲れたって言うからえっちもできてないです」  むすっ。としたわがまま小僧の顔が出た。岸本と1年暮らすようになって、こいつがどれだけ表情豊かなのかわかるようになった。一昨日は残業が長くて、シャワーを浴びたらそのままベッドに突っ伏してしまった気がする。 「すまない……なにかで埋め合わせをさせてくれ」 「じゃあ、今からシましょう」 「……まだ飯も食ってないだろ」 「嫌です。俺は今がいいんです」  やると決めたら曲げない性格の岸本だ。俺は踏ん切りをつけて、岸本の手のひらを小突く。 「わかった。なら、体をどけろ」 「俺が抱っこして連れてきますから、小鳥遊さんは脱力してていいですよ」 「は?」  ひょい、と俺の身体が浮いた。赤子が母親に抱っこされてるみたいな姿勢に、思わず恥じらいが出てくる。腰に回された手は力強く、それでいて優しい。岸本の腕の筋肉に見入っていると、「そんなに見つめられると照れます」と言いつつもまんざらではなさそうな顔と目が合った。  寝室のベッドに下ろされる。岸本はバスタオルを脱ぎ捨て、俺の身体を押し倒した。ぎし、とベッドが鳴る。  岸本は濡れた俺の髪にキスを落とすと、本格的に服を脱がしてくる。脱がし終わった後で、岸本の動きが1度止まった。何やら、先程見た小型のカメラをベッドのサイドテーブルに設置しているらしい。ほんとうに撮られるのか。自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。 「はい。準備完了」  のしっと俺の身体に抱きついてくる岸本の熱が、あまりに昂っていてさぞ辛かろうと思う。気づけば俺もだいぶ首をもたげてきている。2人してこのままでは生殺しもいいところだ。 「たまには、小鳥遊さんからちゅーしてください」  そんなに顔を近づけるな……。最近は岸本主導で致すことが多かったせいか、なんだか気恥しい。 「ねえ。早く」  首筋をさらりと指で撫でられ、くすぐったい。恋人からの頼みだ。期待に応えてやらなければ。 「ん……」  触れるだけの軽いキス。唇に押し当てるだけ。ふに、とした岸本の柔らかい唇の感触。果実のように艶がある。それを何度か繰り返していると、岸本の手が後頭部に回った。気づけば逃げ場な無くなっている。 「んむっ」  口内に舌を捩じ込まれ、追いかけられる。舌先が生き物のように這いずり回る。歯列をなぞって、舌をなぞられて。飲みきれなかった唾液が、口から零れる。それを許さないというように、口周りを舐められる。お前は犬か、と本気で思った。 「部長。顔、真っ赤」  耳元に落とされた言葉に、自分の体の熱がぐんと上がっていくのがわかる。  そこからさきはあっという間で。岸本は執拗にキスマークをつけてきた。胸や、背中や、肩のところにまで。 「もう、わかった。やめろ」  ちくちくとする痛みーーそれが不思議と嫌ではなくて。心地よくて。でも、俺はそう言った。岸本の動きがぴたりと止まる。大きな耳をしゅんと垂らしたような顔で、俺を見た。 「嫌ですか?」  そんな目で見られたら、大丈夫だと言ってしまう。だが、岸本にばかりやらせてはいられない。俺は、身体を反転させて岸本をベッドに沈ませた。ひょえ? としたおとぼけ顔の岸本の目に釘付けになる。気の抜けた顔も可愛らしい。 「撮り高が欲しいんだろ」  そう言い捨て、俺は岸本の双丘に手を這わす。蕾はすでに、ひくひくと口を開けていた。つぷ、と中指が入る。ついで、人差し指が。2本の指を抵抗なく受け入れるそこは、すでに小鳥遊の形を覚えている。 「小鳥遊さん……そんなに、しなくていいですからっ」  ぴちゃぴちゃ。水音が跳ねる音。俺は岸本の小さな蕾に舌を這わせていた。首の角度を変えて、何度も舌を往復させる。だいぶ潤ったところで、ようやっと口を離した。足の間から見える岸本の顔は真っ赤だ。林檎のように熟れた唇が、「やめて」と呟く。 「今日は、どうされたい?」  岸本の耳元で、息を吹きかけてそう聞く。撮りたいと言い出したのは岸本のはずなのに、照れているらしい。か細い声でこうつぶやいた。 「めちゃくちゃに、してください」 「……わかった」  俺は岸本の中に自身を押し込む。抵抗なく受け入れられたことがわかって、ほっとする。岸本の身体を傷つけるのだけは避けたかった。 「あ"っ」  下からの突き上げに、岸本は四肢を投げ出して震える。中にも震えが伝わってくる。俺は、今すぐにでも果てる自信はあったが、岸本をさらなる快感まで高めてやりたくて息を飲む。 「んん……」  岸本の腰に手を添えて、後ろから抱え込むようにして抱く。肩甲骨が綺麗に波形を作っている。それを覆う健康的な肌にキスを落として。なにも抱くことだけが、愛情の伝え方ではないとわかってはいるけれど。直に伝えられるのは、これが1番だとそう思っていた。俺はもう、撮られていることなんか頭になくて。ただ、岸本を気持ちよくさせたい一心で身体を動かす。 「ぶちょ……う。きす、してくらさい」 「っ」  不意に、岸本が後ろを振り返り。舌足らずな言葉で俺を見つめた。その顔が、欲情にまみれた人間の顔そのもので興奮した。嬌声を上げる岸本の口に蓋をしてやる。こうしてやれば、岸本の声は俺の口だけに響く。声さえも、俺のものになる。 「も、だめ……」 「ああ。いいぞ」  きゅううっと中が一際狭くなった。その刺激で、俺は果ててしまう。岸本は、がくがくと腰を震わせて、その直後に達した。白濁が首の辺りまで飛び散っている。量が多い。 「あ、小鳥遊さんのいっぱい出てーー」  岸本がそう呟いたのを見て、その口を塞いだ。実況されるのは恥ずかしくてかなわない。触れるだけのキスをして、目を開ける。とろん、と眠たげな大型犬と目が合った。若干、俺の可愛いフィルターが入っているせいか、目の奥がハートにも見えないこともない。 「痛むところはないか?」  岸本の腹を撫でていると、その手を掴まれた。岸本の胸の辺りに持っていかれる。岸本は、俺の手をとって薬指にキスをした。 「小鳥遊さん。大好き」  照れながら、でも想いはまっすぐで。眩しいほどに素直で。そんな岸本だから目を奪われる。いつまでも、隣で見ていたいと思う。 「ああ。俺も愛してる」  おでこに、キス。軽いリップ音。カーテンの隙間から靡く、夜風の匂い。隣にいる、確かな温もりに今日も触れていた。  もう離れられないくらい、すぐ近くに。  この先も、離れられないようにその手を繋いで生きていきたいと心から願って。  口下手な狼の切なる願いを夜に込めて、今日も星は2人を見守る。 Fin

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