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74 翌日のお昼ご飯は……愛憎弁当?

 な、なんだこれは。  翌日のお昼。弁当箱を開けた瞬間に、小鳥遊の目に入ったのは真っ白な草原……ではなく、お米の原っぱ。弁当の隅から隅まで白米だ。日の丸なら梅干しが入っているはずだが、それすらない。  待て。これは白米の下におかずが入っている可能性が高い。岸本は俺の反応を見て楽しんでいるんだ。  ちらり、と岸本にばれないように顔を上げてみたがデスクに岸本の姿はない。不審に思って、佐久間に声をかける。 「おい。岸本はどこだ?」 「あー、手洗いじゃないですかね。あいつ、飯食い終わると歯磨きしてるみたいなんで」  じゃあ、俺の監視はしてないってことだよな……。じゃあ、いったいなんでこんな弁当を……。  唖然としていると、そのまま佐久間が小鳥遊の弁当を覗き見た。そして、ばつが悪そうに黙ってフロアを出ていってしまった。  佐久間。言わなくてもお前が考えたことはわかる……「あれ。部長、修羅場ですか?」だろ。  まあ、底まで行きつけば唐揚げやら枝豆やらが入っているだろう。  そう思って、黙って食べ進めていたのだが…… 「!?」  おかずが、ない、だと。岸本、これはどういうメッセージなんだ。  小鳥遊部長は白米弁当を食べて、残りのお昼時間は悶々と過ごしましたとさ。 「ただいま」 「おかえりなさーい」  リビングの方から岸本の声がする。小鳥遊は足早に廊下を歩いていった。 「雄……っ」  まで言いかけたところで、息を飲み込む。 「あ、お先シャワー浴びました。お風呂沸いてるんで、入ります?」  腰にバスタオルを巻いただけの岸本の姿に、ドギマギしてしまう。目線が自然と岸本の下半身に向いた。  なんだっていうんだ。いつもは俺の寝巻きを強奪してぶかぶかの俺シャツ状態でいるはずなのに……。 「あ、ああ。そうだな。先に入る」 「いってらっしゃーい」  と、岸本ののんびりとした声に背中を押されてシャワーを浴びにいく。お風呂に浸かっている間も、悶々とした気持ちは消えない。  なんだ。あの今にも襲ってくださいと言わんばかりの格好は。俺は、誘われているのか? 今日はそういう気分なのか?  だめだ。考えただけで身体が火照りそうだ。小鳥遊は勢いよく立ち上がると、お風呂場を後にした。  リビングに戻ると、岸本の姿がない。おかしいなと思って辺り探ろうとした瞬間、後ろから思い切り体重を乗っけられた。重い……。腰が……。  大型犬にでも乗っかられたみたいだ。岸本は、俺の身体にぎゅっと両腕を重ねる。そうして、耳たぶを噛んできた。だいぶ甘噛みだが、ちくちくとする。 「部長、興奮してます?」  小鳥遊は急変した岸本に振り回されまいと、自然な対応を心がける。 「興奮はしていない。ただ……重い」 「俺の愛が、ですか?」  先程から岸本の下半身がぐりぐりと腰の辺りに押し付けられてどうにかなりそうだ。ちゃんとそこは兆しているようだし。熱いし……。 「じゃあ、こうしましょう」 「う、わっ」  そのままカーペットに押し倒される。馬乗り? 犬乗りされたと思ったら、上から両手首を床に押さえつけられてしまった。最近、岸本はジムに行って筋トレしていると聞いているが、一回り身体がでかくなったような気がする。大胸筋が……小鳥遊を誘惑した。すぐ眼前まで、岸本の胸板が迫ってくる。小鳥遊はごくり、と生唾を飲んだ。 「ふ」  と岸本が笑う。子供みたいに邪気のない空気で。そうして、小鳥遊の頬にキスを落とした。 「な、なんだ」 「今日は、気になることあったでしょう?」  唇は避けられ、首筋に唇が這う。ちゅ、とリップ音が鳴る。その肉厚な舌が、小鳥遊の鎖骨をぺろりと舐め上げた。岸本の紅い舌がよく見える。 「……弁当の、ことか?」  小鳥遊は身を捩らせるが、岸本がそれを許しはしない。強い力で上から押さえつけてくる。 「ああいうのなんて言うか知ってます?」 「……知らん」  ぷい、とそっぽを向いたのがいけなかったのだろうか。岸本のスイッチがカチリと入った音がした。着ていたスウェットを胸元まで押し上げられる。尖った舌先で、ぺろぺろと乳首を舐め上げてきた。たまらず、腰が揺れる。肋骨のあたりも舐められ、身体がこそばゆい。 「愛憎弁当って言うらしいですよ」 「愛憎? 俺のこと嫌いなのか?」  自分でも驚くほどしょんぼりした声が出た。すると、岸本は慌てたように目を泳がす。やりすぎた、と顔に出ている。 「ち、違います。小鳥遊さんの反応が見たくて作っただけです。だから、嫌いじゃないですよ」 「でも、そのときお前いなかっただろ」 「……つくづくお馬鹿さんですね。俺が直に見るわけないでしょう。ちゃんと仕掛けがありますから」  岸本が指さした方向にあったのは、床に転がった黒い小さな機械だった。 「今って便利ですよねー。ああいうのも手軽に購入出来る時代ですから」 「あれは、なんだ……」  おそるおそる聞いてみると、岸本は。 「超小型カメラですよ。弁当箱に入れてたのは別ですけど、今はあれで動画を撮ってます」 「なっ」  撮られているっていうのか? この姿を?  小鳥遊はわなわなと震え出す。こんな、こんな勝手に……。 「あ、怒りました? すみません。でもそういう反応も面白いから」  ちゅ、と岸本は小鳥遊の手の甲に口付ける。触れた唇が熱い。 「いつも同じやり方だと飽きるでしょう? だから少し趣向を変えるのもいいと思って。嫌なら、片付けますけど」  「どうします?」といけすかない顔の岸本。上等じゃないか。そこまで言うなら、撮らせてやろう。お前が泣いても泣いてもやめないぐらいにな。と、内心闘争心が湧き出てきた。

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