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「守がオメガでよかった。俺はおまえと家族になりたい」
「駿輔……」
涙腺が崩壊したようにわんわんと泣く守の背中をトントンと叩いてやる。ぎゅっとくっついてきて離そうとしない。
「僕も駿輔と一緒に生きたい……家族も欲しい」
「ああ。約束だ」
その日、初めて守と繋がった。あのときの煌めくような瞳を小鳥遊は一生忘れることはできない。
貯金を切り崩して守との愛の巣を購入したことも後悔はない。将来2人くらいは子供が欲しいねと笑う守に小鳥遊も頷いたのは夏の終わりだったろうか。秋口から冬にかけて2人で何度も繋がった。しかし、妊娠検査薬には望むような結果は現れなかった。苦しげな表情を浮かべる守を見たのはそれが初めてだった。ひとりっ子だった守は祖母に育てられたという。両親を幼い頃に亡くした守は家族というものに強い憧れを持っていた。自らがオメガと判定されたときには、いつか必ず好きな人との子供を産もうと固く決心したらしい。
産婦人科で検査を受けたあと結果を聞いて守は顔面蒼白になった。あのときのショックを受けた顔を小鳥遊は忘れられない。今でも瞼の裏に強く焼き付いてしまっている。驚愕と諦めと悲しみの色が折り混ざった表情。
「なんで。なんでこうなっちゃうの?」
ファミリータイプのマンションがいつもより広く感じた。ソファの上で膝を抱え込む守にかける言葉が見つからなかった。子どものように泣きながら次第に小鳥遊を責めるような目つきになる。
「駿輔はなんで平気そうなの? 僕との赤ちゃん欲しくないの?」
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