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守とは付き合って1年になる。出会いは恋愛ドラマのようなありえない状況でだった。休日の昼下がり、散歩に寄った本屋で同じ本を取ろうとして指先が触れ合った。その瞬間お互いに深い繋がりを感じて食事に誘い合った。それが何度か続くと守は一人暮らしをしているアパートに小鳥遊を呼んだ。
「駿輔……僕ずっと隠してたことがあるんだ」
「どうした」
ぎゅっと胸の前で両手を握る守を見てすぐにも抱きしめたくなった。小柄な守にはいつも庇護欲を掻き立てられていた。聞き上手の守に職場での愚痴や私生活の不満なども話していた。誰かに心を開くのは初めてだった。
「僕ね、ベータって言ったけどほんとは違うんだ。幻滅させるかもしれないって思うと怖くて言えなかった。でももう嘘はつきたくないから」
「おまえのことなら全部受け止めてやる。言ってみろ」
潤んだ瞳からつうっと雫が溢れるのを見て、愛らしいと思ってしまったのは間違いだったろうか。
「僕、オメガなんだ」
震える声で呟いた守がしくしくと泣き出す。薄々勘づいていたがまさかと思って目を見張る。
「駿輔がアルファなのは見てわかったんだ。こんな僕にすごく優しくしてくれてほんとうに嬉しくて……気がついたら駿輔のことが大好きになってた」
守の必死の告白を小鳥遊は静かに受け止めた。ふるふると震えている肩にそっと手を回す。するとびくっと肩を大きく震わせて守が顔を上げた。
「ん…っ!?」
桃色の唇に蓋をするように口づけを落とした。もごもごと何かを言おうとするのを遮る。守のまんまるとした後頭部を撫でながら背中に手を回す。お互いの体温を感じ合うほどに距離が縮まった。
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