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「岸本、俺はもう寝るぞ」  床に落ちている服を着ながら部長が言うのを俺はベッドに寝転びながら聞いていた。本当はまだ部長の肌に触れていたかった。 「おまえも早く服を着ろ。風邪を引かれたら困る」  部長が困るのではない。会社が困るのだと思うと気持ちが沈んでいった。せっかくの甘い雰囲気にヒビが入るような気がして俺もいそいそと服を着た。  無言で横になる部長の大きな背中を見つめながら、どうか届きますようにとつぶやく。 「おやすみなさい部長」  窓から見える星空が紺碧の空をざらめのような粒で瞬いていた。

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