96 / 163
96 間抜けな狼
ミーティング中に突然の眩暈に襲われた。それを米原が面白そうに笑うのを小鳥遊は睨みながら見ていた。
「部長最近飛ばしすぎですよ。ちゃんと寝てますかぁ?」
気の抜けるような声で米原が顔を覗きこむ。こいつは人のパーソナルスペースを理解していないのか度々ぎょっとする距離に近づいてくることがある。今も目と鼻の先に米原の形のいい鼻筋があった。ぱっと顔を背けて椅子に座り込む。
最近たしかに仕事が忙しく残業が続いていた。31歳ともなれば体にガタがくるような年なのだろうか。いや違うなと小鳥遊は思う。若い頃のように勢いと若さだけで乗り切れないことが増えたのだと本当は理解していた。しかし体は勝手に動いてしまう。心の中では無理をしないようにセーブをかけているつもりでも、長年の慣れとは恐ろしいもので習慣的に無茶をしてしまう。
「家でゆっくり休むのも仕事のうちですよ」
米原に言われると何故か癪に触る。こいつの掴み所のない雰囲気のせいだろうか。おまえにだけは言われたくないという反骨精神が出てきてしまうのだ。
次のミーティングまで時間があったのでしばらく仮眠を取ることにした。基本空室になっている備品倉庫室に足を踏み入れる。すると微かな物音が聞こえてきたので耳を澄ませた。
「はっ……んぁ……やっ」
嬌声とわかった頃には大股で声のする方に走っていた。
ーー岸本。
頭の中に岸本の姿が浮かんだ。
「うわっ!」
小さな体躯の男に被さっていた男を薙ぎ払う。棚に背を預けていた男の服は乱れていた。ぎろりと大きな体躯をしている男を睨む。
ともだちにシェアしよう!