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「部長……」
小柄な男が顔を青白くさせて服を整えている。
「宮島。こんなところで盛っている暇があるのか」
ごくっと生唾を飲み込む音が大柄な男から聞こえてきた。岸本と同期の新人だった。最近はすっかり仕事に慣れたのかオメガの社員に盛るほどになっているとは……。呆れて叱る気にもなれない。
「おまえは早く仕事に戻れ」
名前も知らないオメガの社員にそう告げると、彼は小走りでその場から退散していった。目の前で下を向く宮島を見つめながらふと、自分が安堵していることに気づく。
襲われていたのは岸本ではなかった、という事実が体の緊張をほぐしていった。契約した以上あいつを守らなくてはならない。
「宮島。今回は上には報告しない。だが次は……わかるな」
「はい。すみませんでした。2度としません」
表だけは良い顔をする。そんな若手の社員を何人も見てきた。宮島もそのうちの1人なのだろう。心の底では俺のような男を嫌っている。こんな堅物、と思っているに違いない。大きくため息をついて宮島を部屋から出す。彼はもう一度深く頭を下げてフロアに戻っていった。
ようやく1人で休める。
そう思ったら体の力がかくんと抜けた。書類整理用のデスクに上半身を預け目を閉じる。これだけでもずいぶん眩暈が落ち着いた気がする。
今夜の晩飯はなんだろうか。
岸本がエプロン姿でキッチンに立つ姿を何度も見てきたが、本当に料理上手だと思う。今まで食べてきた献立にハズレはないし、栄養バランスもばっちりだ。おまえは栄養士か何かかと疑ってしまいそうになる。昨日は鯖の味噌煮だったから今日は肉だろうか。あいつは野菜を摂れとうるさいからな……思い出してふっと軽く笑い声が出てしまう。
よし。やるか。
美味い晩飯にありつくために今日も働いてやろう。そんな気持ちで部屋から出ていった。
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