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「部長お疲れ様です」  向かう方面は一緒なのだが他の社員にばれないように帰るタイミングをずらしている。買い出しや晩飯の準備は岸本が全てやるので、たいてい先に家に着いているのは岸本だった。  家の中の匂いに安心しながら靴べらをつかって革靴を脱ぐ。きちっとしめたネクタイを緩めながら寝室に向かった。スーツを脱ぎ捨てスウェットに着替える。 「部長ちょっと味見してくれませんか?」  ひょっこりとキッチンから顔を出す岸本を見てそちらに向かう。味噌の匂いが充満していた。 「味噌汁の味なんですけど、薄いか濃いか確認してください」  お椀に少量入った液体を口に含む。特にこれといって違和感は覚えなかった。 「このままで問題ない」 「わかりました。じゃああとは盛り付けだけですから、先に小皿を運んでくれますか?」  軽く頷いて食器棚から新婚気分で守と共に選んだ藍色の小皿を取り出す。それをダイニングテーブルの隅に重ねた。 「じゃあ、いただきます」  葱と豆腐と油揚げの味噌汁に、かぼちゃのマスタード和え、舞茸と豚肉炒めと、フルーツたっぷりのヨーグルトが食卓に並ぶ。まずは肉を口に運んだ。じゅわりと脂が出てきて舞茸の風味とよく合う。冷房の効いた室内で熱い味噌汁をすすっているとこめかみから汗が垂れてきた。 「どうですか、美味いですか?」  岸本はおそるおそるといった様子でこちらを伺う。小鳥遊はゆっくりと口を開いた。 「美味い。また作ってくれ」  いつものようにそう言うと岸本の表情が晴れる。その顔はご主人様に褒められた犬のようで見ていて気分がいい。

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