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102 酒乱・小鳥遊
小鳥遊は翌朝もやもやとした気分で目が覚めた。岸本が作ったベーコンエッグをつついているときも、歯磨きをしているときも、ワイシャツに袖を通しているときも昨夜の言葉が耳から離れない。岸本は小鳥遊の異変を感じ取っていないらしく、いつものように仕事に行く準備をしている。
「おーい。小鳥遊! タカナシ!」
百田の声で頭の霧が晴れる。
「すまない」
「ぼーっとするなんて珍しいな。やっぱおまえ疲れが溜まってるんじゃねえの?」
「……そうかもな」
小鳥遊が力なくそう呟くと、百田は待ってましたと言わんばかりに肩を組んできた。
「そんなときこそ、ぱーっとやって疲れなんて忘れちまえ」
ぐいっとお猪口を傾ける仕草をしてきたので小鳥遊はやれやれと眉間をさする。言い出したら止まらない百田のことだ。きっと引きずってでも飲みに連れていかれるだろう。
案の定、小鳥遊は仕事を終えると百田に肘を掴まれて行きつけだというバーに連れていかれた。水槽の中で泳ぐ熱帯魚を見つめながらグラスを合わせる。シックな大人の雰囲気漂うバーに百田が通っているなんて少し意外だった。こいつはどんちゃん騒ぎがしやすい居酒屋だけに行くものだとずっと思っていた。
「それで、悩みがあるんだろう?」
なんでもわかってますよというふうに百田がこちらを見つめてくる。その視線が鬱陶しくて手を振った。
「おまえに話すようなものは何もない」
「おまえなぁ……同期で親友の俺に話せないことなんてあるのかよ」
ある。岸本との関係は他言できない。
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