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「あ、えっと……俺寝てましたか?」
脳が覚醒したのか岸本がうわずった声でそう聞いてくる。だから俺は静かに頷いてやった。
「えっと……俺の顔に何かついてます?」
「いや、なにも」
言った後で後悔する。じゃあなんで岸本を見つめているんだ俺は。額を押さえてゆっくりと立ち上がり寝室に向かう。あの一夜の翌日に買ったダブルベッドで岸本と寝るようになってから、意外にも疲れが取れやすくなったことを俺だけが知っている。男2人で眠るなんてと当初は引いていたが、岸本を大型犬か何かだと思えばそんなに気にならなくなった。なにより人肌が近くにあるのは心地いい。
ソファからやってきた岸本がベッドの端に腰かける。その距離があまりにも近くて岸本以外だったらきっと避けている。
掛け布団を引き上げる布ずれの音が耳に入った。今朝の目眩のことなどなかったかのように瞳を閉じる。岸本は俺が眠ったと思った後でいつも何かしら囁いてくるのを俺は知っている。しかしそれには答えない。答えてしまったら何かが崩れていくような気がして勇気が出ない。
また今日も「お疲れ様です」だとか「おやすみなさい」と言ってくるんだろうなと思っていたから俺は油断していたのだと思う。
「好きです……」
は?
言い逃げをして夢の世界にすやすや入ってしまった岸本を小鳥遊は片目を開いて見た。
おい、今なんて言った?
小鳥遊は混乱して眠気が吹っ飛んでいく。当の本人はぐっすりと寝入っているのが腹立たしい。
結局その夜、小鳥遊は午前1時まで眠れなかった。
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