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109 運命の番

 それは秋口に入りかかったある日のことだった。9月の残暑の残る空気に少しだけだが秋の風が吹く。  小鳥遊と岸本はいつものように食堂で昼食をとっていた。そんなときだった。横溝課長が慌てた足取りでやってきたのは。 「おおーやっと見つけた。小鳥遊、岸本。今ちょっといいか?」  息を荒げてこちらに向き直る横溝課長を不審がりながら2人は話を聞く。 「午後からうちの娘の授業参観があるのをすっかり忘れていたんだ。だから急で悪いが俺の代わりに会議に出てくれないか? 俺でなくても先方は構わないと言ってくれてなぁ。せっかくならうちの若手社員に会ってみたいとおっしゃられてな」  小鳥遊は形のいい眉を上げてみせた。岸本は上司の反応をうかがう。 「そういう理由ならいいですが……どんな会議なんですか」 「あー、あれだ。新しい住まいづくりについてリブハウスの社長と軽く意見交換をだな」 「リブハウスってうちのライバル会社じゃないですか。大手の住宅販売会社でしょう?」  たまらず岸本が横溝課長に言う。リブハウスはスバルホームズと並ぶ日本の3大住宅販売会社のひとつだ。ちなみにもうひとつは|大手《おおて》住販と呼ばれる明治に創業した老舗の会社になる。 「そんな会議に我々が出席していいんですか」  岸本の慌てぶりを横目に小鳥遊が聞く。すると横溝課長は「いいからいいから」と言って何がなんでも引き受けさせようとしてくる。 「とにかく俺には時間がないんだよ。詳しいことは俺のデスクの上に資料が置いてあるからそれを見て話し合いに参加してくれ。なに、堅苦しい会議と違って意見交換だ。緊張する必要はない。じゃあ、あとは頼むぞ」

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