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「岸本さん、でしたっけ?」
話し合いを終えて綿貫がまだぼーっとしている岸本に声をかける。はっとして岸本は振り返った。
「はい」
「さっきの抑制剤ありがとうございました。おかげで落ち着きました」
「あ、えっと……」
自分がオメガだということを表すようなことをしてしまったのかと思うと頭が痛む。しかし緊急時だったため今更後悔しても遅い。
「大丈夫です。僕は口が堅い方ですから誰にも言いません」
大きな目元を緩ませながら綿貫が言うのを小鳥遊はなんとなく聞いていた。守と雰囲気が似ている。つい守ってしまいたくなるようなそんな可憐さがある。
「それでは仕事の話は終わりましたし、我々の話をしましょうか」
姿勢を正して天海が言うのを小鳥遊は黙って聞いていた。これが岸本との契約の終わりなのだろうと思って軽く目を閉じた。意外にも早かったな、とそんなことを思いながら耳だけはしっかりと音を拾う。
「入室した際に岸本さんは発情しましたね。そして私は本来ならあなたを襲っているところでした。しかし性的興奮は覚えなかった。つまり私の体には性の鎮静化が起きていたんです。それが何を意味するのかわかりますか?」
岸本が唾を飲み込む音が聞こえてきそうだった。
知らないわけがないだろう。岸本。認めろ。認めてはやく楽になれ。
「運命の番ーーあなたと俺が?」
天海は軽く笑った。少し照れ臭そうに頭をかいて。
「そうらしい。でもそれは私たちだけじゃなかったようだ。あなた方2人も運命の番なのでしょう」
小鳥遊と綿貫の視線が交わる。しかしそれは一瞬のことで小鳥遊は目を逸らした。
「小鳥遊さん、そうなんですか?」
期待と喜びに満ちた目で綿貫が小鳥遊を見つめる。たしかに胸の鼓動は速くなったが性的興奮は覚えなかった。もともとオメガには耐性があるといっても岸本のように我慢がきかない相手もいる。
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