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「俺のこと一生そばに置いてください」 「っ」  無垢な告白だった。幼くもあり、儚くもあるそんな言葉だった。岸本の瞳は真剣そのもので、その隅っこの方には照れ笑いが隠れている。  「一生」その言葉が小鳥遊の心を揺らした。欠陥品の俺を認めてくれる人間がいる。こんな俺でもいいと言ってくれる。ただ1人、岸本だけが俺をまっすぐな目で見てくれる。 「後悔しても知らないぞ」  最後の強がりだった。小鳥遊の素直じゃない言葉にも、微かに笑って岸本は応じる。 「あなたとの後悔なら、いくらでも経験したいです」  岸本の言葉に心が震える音が聞こえた。小鳥遊は静かに岸本の肩に顔を埋める。いつもの小鳥遊ならしない行動だった。小さく肩を揺らしながら口を開く。掠れる声で、耳をすまさなければ聞き取れないような声で。 「ありがとう……」 ーー濡れている。と岸本は思った。小鳥遊の顔が肩に当たり、そこから温かなものが流れている。それは肩を伝ってシーツを濡らした。  だから岸本は、その大きくて逞しい背中に手を回して抱きしめる。子どものように震えている狼を優しく撫でた。

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