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第18話 今日から君は梶山村の招き猫

「なぁーん」 「はいはい。まずは腹ごしらえね」  村役場へ戻ると中野が丁寧に三毛猫の世話をしているところだった。お腹が空いているのか、鳴き声が激しい。 「中野さん。お待たせしましたっ」  莉良は急いで中野に猫の餌を手渡した。宗方が猫用フード皿も忘れずに手渡してくれる。 「わあ。あっという間に帰ってきましたね。この子、櫻川さんがいなくなってからギャン泣きで大変でしたよ」  そう言いつつ、餌のカリカリをお皿に乗せて三毛猫に近づけた。すると、勢いよくがっつきだしたので、まずは一安心と足元の力が抜けてよろめいてしまった。 「わっ」 「大丈夫ですか?」  そんな莉良の背中に腕を回して支えてくれたのは宗方だった。この日も空色の縦ボーダーのシャツに白いスラックスという田舎ではまず見ないお洒落な格好をしている。クールビズというのか、最近の宗方はこの暑さに耐えきれないようでスーツを脱いで私服になることが増えた。  その分、さらに洗練された宗方の姿を見てまじまじ見つめてしまうのが最近の莉良だった。 「すみません。朝から少し駆け足気味でよろめいたみたいです」 「そうですか。そしたら、今日はイレギュラーではありますがこの猫との絆を深める日にしませんか? 動画撮影や写真撮影は今後もいくらでもできますし。主演の櫻川様が体調不良とあっては、撮影どころではありませんからね」 「はい……それは助かります」  宗方の言っていることは真実だった。彼はいつもどんな時でも正しい道を莉良に示してくれる。その指示に従えば不思議と上手くいってしまう。やはり、人を指導するメンターのような立ち位置なんだなと感心する。 「中野さん。面倒見てくれてありがとうございました」 「いえいえ。私も癒されてすごく楽しかったです。この子のお名前決まったら教えてくださいね」 「はい。もちろんです!」  三毛猫の入ったダンボールを担ぎ、莉良と宗方は莉良の家へ向かう。ひとまずは莉良宅で預かるのが良いだろうとのことで、渡辺にも報告をした。  すると渡辺は文鳥を飼っているだけあって、ペットの知識を多く持っており、市場から村へ帰る間にある動物病院でノミなどの検査や各種健康診断も終えて連れてきたのだという。何から何までお世話になってしまった。今度、渡辺が好きな醤油せんべいでも持っていこうかな。そう思って家の中でケージを組み立てていた時だった。 「この子、オスですね」 「へえ。男の子なんですね」 「渡辺さんから動物病院でほ健康診断のメールが届いたんですが、年齢は推定3歳みたいです。既に去勢手術済で、既往歴なしとのことです」  三毛猫は莉良宅に着いてからというもの、ご飯を食べてすっかりお昼寝モードに入っているので小声で会話をする。自然と、宗方との距離も近くなり焦るがそれを顔に出すわけにはいかない。 「オスの三毛猫は本当に珍しいんですよ」  ケージの組み立てが終わり、宗方にダブルチェックをしてもらっている間に猫用トイレの設置をする。また、猫が誤飲しないよう小物類は目に見えない引き出しの中に隠した。コード類もまとめて絡まないよう注意する。もともとペット可の物件だったため、一応大家さんに連絡は入れておいたが捨て猫を拾ったという話なので、快く受け入れてくれた。家賃もそのままで良いと言ってくれたので、有難いなと思いつつ目の前で眠る三毛猫を見つめた。  見れば見るほどかわいい。 「名前、決めましたか?」 「うーん。男の子らしい名前がいいかなって思うんですけど……」 「三毛猫の名前で多いのは、和名らしいですよ。きなこ、ちくわ、ささみなど」 「へえ。皆食べ物の名前なんですね」 「食べ物の名前にこだわる必要はありませんが、猫が自分の名前だと認識しやすいものが良いみたいです」 「なるほど、そしたら……」  ちょうど目をぱっちり開けてふわあと欠伸をした三毛猫の横腹をそっと撫でる。 「今日から君は梶山村の招き猫の『きなこ』だよ。今日からよろしくね」 「なぁあーん」  元気いっぱいにきなこが返事をしてくれた。  宗方はそんな莉良の横顔を静かに見つめていた。

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