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第52話

優しく穏やかな毎日が流れていった 秘密を打ち明けあい距離が縮まり 二人の将来を約束しながら今を楽しく過ごす たまらないしあわせだった 「グリフ」 「んー?」 「……グリフは私の悩みを消してくれた。だが、その」 「ディラ」 「うむ」 「愛してる」 「……うむ」 「何もかも、ディラの思う通りでいい。もし俺がそれに何か思えばちゃんと言うから、心配しないで」 「……うむ」 「あなたを愛してる」 「私も、グリフを愛してる」 「そうか」 大輪の花が咲くような晴れやかで華やかな笑顔 何もかもその笑顔で満たされる 「待っていて。とびっきりのお嫁さんになるから」 うわー……どんな殺し文句ですか グリフはディラを愛と共に抱きしめる ディラは悩みはなくなっても気持ちの切替がうまくいかないと言い あとしばらく時間が欲しいとグリフに伝えた そしてその時 もう少し"恋人"を満喫したいのだとも俯きがちに口にした グリフは笑顔で愛しい人の気持ちを受け入れ 自分もそうだよと口づけた 何も急ぐ必要はない 「グリフ、今日は?」 「うーん……昼も夜も、難しいな」 「そうか。では、私も出かける」 「ああ。どこへ?」 「王宮へ」 「俺も王宮にいるのになぁ」 「うむ。で、あるな」 何かと物騒な情報が交錯して グリフォードをはじめとした首都警護部隊は通常よりも警戒態勢寄りだ 本部との軍議もよく開かれるので 今朝一緒に食事を摂ったのも三日ぶりだった お互い寂しい思いをしながらも そのわずかな時間を笑顔で過ごす 「|大陛下《おおへいか》とお顔をあわせるのか?」 「どうだろうか。私をお召しなのは国王陛下だから」 「そうか」 「新しく庭を設えていて、できる限り日参せよと」 「……なかなか難しいな」 「うむ。大変失礼ではあるが、お言葉どおりできる限り、とさせていただいている」 マディーラが朝陽の中で目を伏せて微笑む グリフォードは少し顔が熱いような気がした 国王陛下のお召しにお応えするかどうか それを決める前に自分の予定を聞いてくれるのだから嬉しくないはずがない 「ディラ……ありがとう」 「うむ。王宮に行けば、どこかでグリフと逢えるかも知れないと思えば、それも楽しい」 「そんなことを言われたら、意味も無くうろついてしまうよ」 「迷子にならぬように、気をつけて」 「了解した」 今日は駐屯所に泊まるけれど 明日の夕方には戻ってくるよとグリフが言うと マディーラは嬉しそうに笑って頷いた 最近はなかなか丸一日の休みが取れない 二、三日は連続して駐屯所へ泊まり 帰れるのは夕餉に間に合うかどうかという時刻 何日かに一度は今日のように朝餉だけでも一緒にと 何とか自宅に戻ってディラの顔を見て 職場へとんぼ返りをするほうが多い そのまままた数日泊り込むこともよくある そしてその翌日は夕方になるかと思ったけれど もう少し早い時間に帰宅することができた マディーラは慌てていた どうやら秘密の特訓をしている最中だったようだ 「今しばらく、厨房に立ち入ること罷りならぬ」 それだけを言ってグリフを残して踵を返すと 珍しく早足で食堂の奥の厨房へ引っ込んでしまった どこも汚してなどいなかったけれど 何故かディラの服はびしょびしょだった 一体何をやっているんだろう グリフは気になって仕方が無かったけれど どうやらマディーラはグリフを甘やかしてくれない性格だ 仕方なく自室に戻って汗を流し 着替えを終えて 最近の家の中での出来事の報告を受ける その部屋の窓辺には昼下がりの陽を浴びる薄い黄色の花が一輪飾られていた たったそれだけで グリフの気持ちはあっという間に仕事から離れて緊張を解き 自分の手にあるしあわせを実感する 「すまぬ。ロクにおかえりなさいも言わずに」 「いや……」 ディラは特訓が済んだのか気が済んだのか しばらくするとグリフの部屋へ来てくれた 彼の姿を目にするだけでこころが踊る グリフは愛しい人に口づけをし ここ数日ご無沙汰だった愛の行為に及ぼうと ディラを抱き上げて寝室へ向かう 「ディラ、今日は何を習っていたのだ?」 「うむ……知っているか?グリフ。料理の道を志す人はまず、道具や食べ終わった食器を洗うことから始めるのだそうだ」 「……そうなのか?ウチの料理人がそんなことを?」 「うむ。どのようにして修行をなさったのかと聞いたら、最初はそういった作業をしながら、少しずつ覚えていったものだとおっしゃった」 「……で、ディラもまさか洗い物を」 「うむっ」 寝台の上で口づけを繰り返し グリフはディラの近況を聞きながら彼の服を剥いでいた ディラは自分の新たな試みの話に夢中で あまり色っぽい雰囲気にならない グリフの問いにギュッと拳を握り 鼻息荒く頷いてみせた 「……食器を」 「うむっっ」 「えーと……それで、ディラはいつまで皿を洗うんだ?」 どんな世界でもそうだろうけれど 下っ端の下積みというのは時間がかかる 専門職になればなるだけそうだろう 新人を大海原のど真ん中に小舟とともに放り出して「自力で岸まで帰って来い」とか 新人を未開の山の中に短剣一つとともに放り出して「十日経ったら迎えに来る」とか そういう乱暴な教育をするのは軍部ぐらいで 通常は雑用をさせながら少しずつ任せる仕事を増やしていくものだ しかしディラは料理の世界で身を立てるわけではないのだから 皿洗いに五年とか 野菜の下ごしらえに三年とか そういう課程は相応しくないだろう 聞かれたマディーラは真剣な顔で答える 「上手に皿が洗えるようになるまでだ」 「上手に……とは?」 「うむ。服が濡れなくなれば一人前だそうだ」 うまい ウチの料理人グッジョブ 彼だって困っただろう 自分の修行時代の話を請われて まさかその通りをしたいと言い出すとは思わず ディラのやる気を殺がずに手近な目安を与えてくれた ありがとう、料理人 「さっき見かけたら、確かにびしょびしょだったな」 「うむ……前掛けをしていてあれだから、まだまだだ」 「そうか。頑張るディラは素敵だな」 「で、あろうか」 「ああ。きっとすぐに上手になって、料理の腕も上がるだろう」 「……待っていてくれるか?」 「もちろん。いつまででも」 「そんなには待たせぬつもりだ!」 「そうか。楽しみだな」 ようやく甘い雰囲気が漂い始める グリフはディラの素肌を撫で回し 愛しているよと囁いた ディラは薄っすらと頬を染めて私もだと頷く っくーー!!かわいいね! うちのディラはかわいいね!! 「……は……ディラ、すごくいい……」 「ん……」 初めてしてもらった時は突然のことで 取り乱して早漏っぷりを披露してしまったけれど 最近は多少の耐性がついてほどほどに面子が保たれている それでもディラに口で性器を弄られていると 視覚と触覚の両方から攻められて終始守りに徹するしかない 有り体に言えば必死でイクのを堪えまくる 「グリフ、気持ちいいか?」 「ああ。もう、イきそうだ」 「……前から思っていたのだが」 「ん?」 ディラは熱心にグリフの陰茎を摩り 赤い舌で舐めては柔らかい唇で食む ずっぽり咥えられるのもいいけど、こういうのもイイよね 「何故グリフは、気をやるのをいくと言うのか」 「……さて?後宮ではなんと」 「普通だ。達するとか放つとか昇天するとか」 「……普通か?」 「おかしいだろうか?」 「いや、おかしくはないが」 なんだか庶民の愛の行為にはそぐわない様な響きだ なんと言うか、多少の卑猥感が欲しいのだろう グリフはディラの手ごと自分のを掴みゆるゆると擦る 「気をやるとき、どこかへ行ってしまいそうになる……ということではないか」 「ふぅむ……」 「腑に落ちないか」 「……どこかへ行きそうになると言うよりは、何かが来るという感覚の方が近いが」 ああ、アレね すごいの来ちゃうぅ!ってやつね ディラ的にはそっちなのね グリフは自分の股座に顔を埋めて腹ばいになっているディラを抱き起こし 自分の太ももに跨らせる 「グリフ、まだ途中だ」 「そうか、ディラはイくよりクるという感覚か」 「うむ……最初は」 「最初?」 「最初の、一度目の時だ。その……一度の営みで、何度か、達してしまう、から」 「何度か」 「……何度もっ」 「うん。ディラがそうなるように、俺が励んでいるのでな」 「と、とにかく!その最初は、何か、こう、来る感じなのだ」 「そうか。では、その後は?」 「……それは、グリフの言う通りのように思う」 「うん?」 「一度達してしまえば、ずっとどこかへイってるような感じだ」 「……そうか」 ディラ、そう言うのをイきっぱなしとかイきまくりとか言うのだ ……とは教えない ディラの独特な語彙で説明されるほうがよっぽど興奮するからだ 美しい人が恥らう様子は堪らない グリフはディラの太ももやわき腹を撫でながら うっとりとディラを見上げる 「では、二度目以降はイくってことでいいか」 「うむ……イく……イってる……?……あ」 「ま、まだ何か」 絶頂時を必死に言葉にしようとするディラは官能的だ そうかそうか 一回キちゃえばイきっぱなのね、ディラ 変態的な興奮で涎を垂らしそうなグリフを他所に マディーラは真剣に言葉を探して思案顔だ 「……よい」 「ええ!?なんで、教えてくれ」 「……その、おかしな感覚の時があって」 「え?嫌だったか?」 「嫌ではない。私はグリフに愛されて嫌な思いなどしたことはない」 「そうか」 流れる銀の髪をスルリとかきわけて グリフはディラを引き寄せてその頬に口づける そろそろ実地で検証したい イくのかクるのか どちらなのか一緒に確認しようじゃないか 「おかしい、とは?ディラ、痛いのか」 「痛いのではなく……その……すごく、強く、快感を与えられて」 「うん」 「……受け止め切れない、のだろうか。放つと思うのに、そうならなくて、でもそれ以上で」 「ああ。出さずにイってるということか?」 「グリフ!どうしてわかるのだ?すごい……その通りだ」 マディーラのキラキラした眼差しは 時としてグリフに自責の念を生じさせる 空イキの話で尊敬されても居たたまれない しかしまあここはお決まりの台詞で返すべきだろう 「ディラを愛しているから、愛の行為については何でもわかるんだ」 「グリフ……!」 ディラは感激したようにグリフの首にしがみつく うーん しあわせ グリフの指はゆるゆるとまぐわう準備を始める 「ん……っ、グリフ、待って、まだ」 「ん?」 「今日は、ちゃんとグリフのを口で」 「ああ、もう十分だよ」 「ダメだ。近頃私はきちんとできてない」 「では舐め合おうか」 「グリフはズルをするからダメだ」 グリフはディラの言葉に笑いを堪える 互い違いになって相手の性器を舐め合うと グリフはすぐにディラの後孔まで弄りだすので マディーラがちゃんと口淫できないのだ ずるいぞという抗議はすぐに喘ぎに変わる グリフはそういう流れに持っていこうとしているけれど 今日のマディーラは頑なだった 「ちゃんと、グリフ」 「ちゃんと。俺のを舐めるのが仕事か?違うだろう」 「違う。でも、グリフが気をやってくれるから、好きなのだ」 「ディラの中で何度もイくだろう?」 「だめ、飲む……!」 あぅ 今のでイけるかも グリフは暴れるマディーラを抱きしめて寝台に押し倒したところで 衝撃的な台詞にこころを射抜かれる 飲むって…… いや、飲ませちゃってるけどさ そういうおねだりは結構クる ああ、これがクるってやつか? いや、違うよな 「愛してる、ディラ」 「私もだ。愛したい」 「わかった。じゃあ、俺をイかせてくれ」 「うむっ!」 グリフがディラの上から退いて ごろりと仰向けに大の字になると ディラは嬉々としてグリフの片脚を抱くように身体を寄せ いきり勃つグリフの男根を掴む ディラがグリフの脚を跨いでいるので ディラの昂ぶりはグリフに押し付けられている形だ 当たるすね毛が刺激的……なわけはないか 「ん……あむ……」 「ディラは本当に口淫が巧い……もう出るぞ」 「んんっ」 張り切って頭を上下させ ディラがグリフの息子くんを舐め回し吸い上げる 感触もさることながら 音とかディラの声とか 色々ない交ぜになってグリフは見る見る高みへ押しやられていく 解放を求めてより強い刺激が欲しい グリフが甘い声でディラに強請ると 一層激しくしゃぶられて グリフは数日ぶりの欲望を吐き出した 「く……ぅ、はっ……んっ」 果てる瞬間も気持ちよくて声が漏れるけれど 出している最中もディラに吸われて 最後の一滴をチュッてやられると 思わずディラの髪を掴んでしまうし身体が震える ああ すっげ気持ちいい 「グリフ……如何か」 「最高……ディラは本当に床上手だ……」 「本当か?」 「ああ……メロメロだ」 「うむ。ここはカチカチだが」 「では使わない手はないな」 グリフは今度こそディラを組み敷いて 甘い囁きと共に身体を繋げる イくのかクるのか そんなことどうでもよくなるほど 愛の営みは喜悦に満ちていた

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